エレン
エレンは王宮の騒ぎで「ルーナ」を広間から避難させるより自らの君主であるキーズの安全を優先した。
エレンは君主キーズの侍従長なのだ。まっとうな判断だったと思う。
しかし「ルーナ」は怖くて動けなかったのか広間に残ってしまった。
準備不足の成り行き上、エレンがトーカル公国親善大使御一行の案内係のようになっているのだ。
結果的に事なきを得たがエレンは非難を受けることを覚悟して「ルーナ」に謝罪することにした。
少なくとも恐怖に震える彼女を慰めねばならないだろう。
「エレン様、頭を上げてください。わたくし、怪我なども負っていません。
エレン様の指示は的確でした。
わたくしは自ら広間に残ったのですから」
たったそれだけの言葉だったがベールを外した「ルーナ」の凛とした姿勢に惚れ惚れしてしまった。
「ルーナ」がベールを外した際、エレンは彼女の後ろに控えていて顔がよく見えなかった。
君主の呆けた顔でだいたい察していたが面と向かって対峙すると改めて君主の心臓が打ち抜かれていた理由を体感した。
「ルーナ」は儚げで可憐だ。
十九歳というがもっと若く見えなくもない。
それでいて強い意志が感じられる空気も持っている。
危なげで、凛々しく、人を惑わせながらも、力強く人を導く。
本来、両立しない要素が彼女の中で完璧に収まっている。
奇跡のような女性なのだ。
「ルーナ」がキーズに向かって言い出した『雷帝』の件は誤解があったようだが、まあ、他の国からも似たような問い合わせを受けたことがある。
『残酷雷帝』は歴史書の記述から取った呼び名だが『奇跡の動力石』を安易に狙われないように情報操作している面も有り、公女の誤解は致し方なかったと理解できる。
いきなり「伴侶になりたい」と大勢の前で宣言したことには驚かされたが公女の行動力のなせる業とも言える。
「なかなかに大胆な公女様だ」
エレンとしてはそういうところも彼女の美徳の一つだと思った。
エレンはどちらかと言わないまでも芯の強い女性に弱い。
かの女性もそうだった。
普段エレンにすり寄って来るのは肉感的で奔放な女性が多い。
エレンという人が恋愛をゲームの様に楽しむためにそういったタイプの女性を好むと周囲が考えているのが理由だろう。
気位ばかり高い年上の婚約者を切り捨てて独身を謳歌しているのも、そのためだと言われている。
エレンは思った。
……キーズ様には渡したくない。




