カディラとガトゥール2
歴史になぞらえて皆から残酷雷帝の再来と呼ばれるカディラを、母は慈しんだ。
その母の聴力と視力を奪ったのが自分自身だと知ったとき、罪悪感でカディラの体はバチバチしそうになった。
そのときは母が抱きしめてくれて事なきを得た。
その後もカディラが悲しみや自分への怒りを感じそうなときは母がいつも抱きしめてくれた。
他の子に混じって遊ぶこともめったになく寂しい思いもした。
でも、その分歳の離れた兄が寄り添ってくれた。
成長と共に感情のコントロールも少しずつできるようになってきた。
そして、落ち着いていれば魔力を調整して、ごく小さな雷を呼ぶことも練習の成果でできるようになった。
そして母が流行り病で亡くなると、気持ちが荒ぶらないようにカディラは家に引きこもるようになった。
それでもこれまで何度か動揺して雷を呼んでしまった。
誰かの命を奪うような被害は出していない。
でもカディラが呼んでしまった雷がもとで怪我を負った者もいる。
その腕に巻いていた包帯がカディラの脳裏から離れて行かない。
カディラの母は、小さな閃光をバチバチ放つ状態のカディラにも唯一触ることができた。
しかし母はもういない。
護衛だった父が任務中の事故で亡くなると、身を挺してカディラを守ることができるのは兄のガトゥールだけになった。しかし。
ガトゥールは呟いた。
「あのとき、ルーナ公女殿下は、発光しているカディラに触れていなかったか?」
母が亡くなって誰もカディラを止められなくなった。
とガトゥールは思っていた。が、違うのでは?
母でなくても、眩しい闇に取り込まれたあとでも、カディラを引き戻すことができるのかもしれない。
「ルーナ公女殿下が、傍に居て下されば……」
ガトゥールは急に体温が上がるのを感じた。
女性に心を動かされるなど護衛にあるまじきことだと常々考えていた。
だから広間でベールを脱いだ「ルーナ」の美しさに心が持って行かれないように踏ん張って死守した。
「いや、しかし、ルーナ公女殿下は『雷帝』の伴侶になりに来たと言ったではないか?」
いやいや待て待て。『雷帝』とは己の妹のことだ。
それだと同性同士になってしまう。しかし。
もし『雷帝』の家族でもいいのなら…………自分でも…良いのではないか?
一気に顔が赤くなった。
思い出した。
「ルーナ」はこの世の者とは思えない美貌の持ち主だった。
外見だけで人を判断してはいけないが「ルーナ」は妹を救ってくれた。
少し話しただけだが人柄も悪くないように思えた。
生真面目で無骨な護衛ガトゥールの胸の中に初めて、碧の多弁花がぶわっと咲いた。
そのとき、玄関のドアを控えめにノックする音が聞こえた。




