謁見2
白いベールに白いドレスを纏った、すらっと背の高い女性が広間に登場した。
ドレスの上には金絹の髪が柔らかく落ちている。
悩ましげなベールで顔を隠しているが、すでに秀麗な空気を纏っている。
ルキシャは旅の装いから着替えたが今着ているドレスも「白」だ。
それを見てエレンは「ルーナ」の真意を決定的なものと見た。
君主にもそう伝えている。
君主もそれを聞いていたので鼻の下を長くしたのだ。
サラナームで女性が白いドレスを着用するのは決まったときだけ。
トーカル公国は断られたにも関わらず、婚姻を匂わせる「白」を公女に着せて送り込んだのだ。
「ルーナ」になりすましているルキシャは静々と進む。
女性の装束を着ているときはルキシャとしてのスイッチが入っている。
長年やっているので女性らしい振る舞いもお手の物だ。
ドレスを着ているときは女性らしくした方が動きやすい。
着替えだって一人でもできるぐらい慣れている。
大勢の視線が刺さるのにも慣れている。
大丈夫。大丈夫。
( すごいわ! お姫様、ベール被ってるのに既にお美しすぎる! )
広間の隅の方で波打った黒髪が艶めいて揺れた。
ルキシャはエレンを従えて君主の元へ進んでいく。
ルキシャの計画では、ここはアーネストを従えるはずだった。
アーネストとメリア以外の他の随行者たちにはルキシャではなくルーナが親善大使だと説明してある。
随行者たちに顔を見られてバレないようにルキシャは旅の間ベールを被っていた。
同行者に対してもこのような偽りを行ったのはルキシャの無謀な計画に皆が賛同するとは思えなかったからだ。
そしてルキシャとルーナは背格好が似ていて、ベールを被ると結構誤魔化せた。
なんとかなってしまった。
結果的にだが、崖登りで全員が使い物にならなくなったのは幸運だ。
この広間の空間にルキシャの顔を知る者はいない。
ルキシャがサラナーム君主の前で膝を曲げて丁寧な礼を取る。
「お目にかかる光栄に感謝いたします。
トーカル公国より参りましたルーナ・ド・トーカルでございます」
皆がため息すら漏らさずにルキシャの美しい仕草へ視線を注いでいる。
この部屋に入る前にベールは取っていても良かったが、ルキシャはこの際、演出としてベールを取るタイミングを計った。
そして今、ベールをスルリと脱いだ。
(((((((( なんと!!! ))))))))
この宮殿の広間にいる者たちには美姫の噂について懐疑的だった者もかなりいた。
そもそも美しさなんぞ人によって基準が異なるのだ。
小国のお姫様なんて実際大したことはないのでは?とそう思う者も少なくなかった。
ルキシャの演出は当たったのか?どうだろう?
目の前で椅子にかけている君主はルキシャを見て固まったまま言葉を発しない。
ルキシャより背後にいてルキシャの後ろ姿しか見えない者たちがざわざわとしだした。
「……キーズ様、固まってないか?」
声が聞こえたのか君主が我に返った。
唾をごくりと呑み込む音が響いた。
「ルー、ルーナ、殿下。はるばる、の来訪、まことに……うつくしい…」
我に返り切っていなかった。
ルキシャは、とりあえず第一関門を突破したようだ。
一目見て「気に入らない」と切り捨てられる可能性もあったはずだ。
それにしても目の前にいる『雷帝』は、さほど恐ろしい男のようには見えないのだが……。
とりあえずルキシャは計画を進めることにした。
「お会いできて本当に嬉しく思います。
早速このようなことを申し上げる無礼を、どうかどうかお許しください。
わたくし……あなた様の……伴侶になりたい、と参ったのです」
再び君主が唾を呑み込んだ。
瞬きもしないでルキシャを見つめている。
「どうか、この願いを叶えてください……。
わたくしを、あなた様の、『雷帝』陛下の婚約者にして下さい……」
( 今、お姫様が………『らいてい』って言わなかった……??? )




