遠回りしちゃいました
「ねぇ、和也の知り合いにイケメン居ないの?」
行きつけのバーにて、隣に座る一ノ瀬美玖から唐突な質問を受けながら、口に含んだ赤ワインをゴクリと嚥下する。
「なんだ、藪から棒に?」
「また親からいい人居ないのかって言われたんだよ」
ワイングラスを片手に持った美玖は、幼稚園の頃から家が隣同士の幼馴染。
お互いに就職で上京して、家も職場も離れているのだが、こうしてたまに飲みに来る事がある。
栗色のさらさらとしたセミロングで、ナチュラルメイクながら整った目鼻立ち。
美人なのに彼氏が居らず、その事を気にする親の愚痴を度々漏らしていた。
「お前なら彼氏くらい簡単に出来そうだけどな」
「簡単にできる彼氏なんて、どれもロクな男じゃなかったよ」
「そうか」
「アンタは? 同棲していたし、そろそろゴールインな感じ?」
「先月別れた」
「は? それ初耳なんですけど」
「浮気された」
「マジか」
「マジだ」
元カノが間男と寝ていた光景を思い出し、ブルーな気分になってしまう。
「あたしらさ、もう三十歳になるじゃん」
「なるな」
「結婚、できるのかな」
美玖はワイングラスを見つながら、ため息交じりに将来を心配する。
「今のご時世、結婚にこだわる必要ある?」
「ん~、ぶっちゃけ面倒だけど、親がうるさいしなぁ」
「まあ、それはわかる。別れたって話したら、うちの親もがっかりするだろうな」
グラスに酒を注ぐマスターの後ろに並ぶ酒瓶を、遠い目で見つめる。
正直、元カノの事は好きだったから、未だに気持ちとしては辛い。
「あんた、今フリーなの?」
「ああ」
「じゃあ……もうあたしが結城美玖になるって事で良くね?」
酒のせいなのか、あるいは発言のせいなのか、ほんのりと頬を赤らめた美玖の突拍子もない発言に、度肝を抜かされる。
だけど顔には出さないよう、平静を装う。
「酔ってんの?」
「そうかもね」
「お前を異性として見た事、無いんだが」
「酷っ。あたしは高校くらいまで、割とマジで和也のこと好きだったけどね」
衝撃のカミングアウトだった。
言われてみたら、美玖に初めて彼氏が出来たのは、俺に初めて彼女ができた大学以降の話だった。
「……いきなり結婚は早いと思うが、付き合うか?」
俺も酔いが回って、魔が差したのかもしれない。
「そうね、付き合おっか」
「……ああ」
「あたし達、遠回りしたね」
「……そうだな」
三十路になるまで遠回りして、幼馴染の美玖と付き合い始める。
入籍したのは、この日から半年後だった。




