タイトル未定2025/09/19 15:44
その1 バトル勃発
ここだけの話、先般、犬に咬まれた。
生まれ育った村の昔話が聞きたくて、長老を訪ねた。取材旅行である。約束の時間に行っても、長老夫妻は不在だった。ゲートボールが長引いたようだった。
クルマに気づいて、犬が激しく吠え出した。山間部では野生動物が畑を荒らすので、犬が不可欠だ。妻が先に降りて行き、なだめている。犬は警戒を解かない。筆者が盲導犬のエヴァンを促して庭に足を踏み入れたとたん、エヴァンに突進してきた。繋がれてなかったのだ。
エヴァンは震えて、ひたすら筆者の脚に身をすり寄せるだけだった。護ってやるため、左手で追い払おうとした。攻撃は止まない。
妻がエヴァンをクルマに避難させた。犬は相変わらず筆者に吠えかかる。
(何か武器になるものはないかな)
と手探りしたが、目が見えないので万事休すだった。
左手がヌルヌルしている。犬のよだれだろう、くらいに考えた。それにしても手が痛い。
妻がクルマから戻った。筆者の手を見て悲鳴を上げた。出血していたらしい。犬も落ち着いてきた頃、家人が帰宅した。
その2 口うるさくて悪かったね
盲導犬訓練所で合宿訓練中、訓練士から聞かされていた。
「吠えられたり、咬みつかれそうになったら、すぐに現場を離れてください。この子たちはバトルの経験がないから負けます」
我が家の仲間入りした当初、飼い犬のミニチュアダックスフンド・シモンにも、うるさく吠えられていた。エヴァンは小動物に反撃することなどなく、右往左往していたものだ。
シモンはメスで、山梨生まれの埼玉育ち。四国に移住してすでに一〇年が経過し、老境に達した。イジメや虐待とは無縁な家庭環境だった、と自負している。それかあらぬか、シモンの吠え方には、悪意は感じられない。まあ、ちょっと小うるさい性格なのかもしれない。
その3 野犬は怖い
知り合いに猟師がいる。
シーズンになると、くくりワナをしかけては、山中を見回る。イノシシやシカなどの有害獣がかかっていれば、猟銃で仕留める。
ベテランハンターをしても
「野犬は怖いですよ」
と言わしめる。
群れにでも出くわせば
「とてもクルマから離れる気がしない」
という。
農家の飼い犬一頭に手を焼いた筆者としては、十二分に納得できる話だ。
その4 連鎖を断つもの
野犬たちの多くは様々な事情で捨てられた。人間を敵としか思っていないだろう。
その上、憎しみの牙を研ぎ、不幸な生い立ちの過程でサバイバル戦を生き抜いてきた。いわば歴戦の勇士だ。
眉に剃りを入れて生まれてくる赤ん坊がいないように、手を付けられないほど凶暴な仔犬や仔猫はいないだろう。
では、どこで憎しみを植え付けられるのか。人の子とペットに関する限り、親、里親、飼い主ひいては社会の責任は免れない。
思うに、善良な市民候補でも、環境次第で人道に対する犯罪者に変身する。戦争はもとより、身近なイジメや暴力事件しかりだ。まことに人の業は深い。