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第3章:レイヤーの亡霊たち

薄暗い地下道を進むと、空気の匂いが変わった。


かつては都心の地下鉄の一部だったはずのトンネルは、今や配線と残骸の迷宮だった。天井の配管からは微かに水が滴り、足元にはデジタル機器の骨のような破片が散らばっている。


「電波が届かない場所なのか?」


翔は、後ろを振り返って訊ねた。


先を歩く女は、無言で頷いた。名をまだ名乗っていない。だが、翔の中には奇妙な安心感があった。彼女の周囲の空気が、今の社会には存在しない“真実”を孕んでいるように思えたのだ。


数分後、重厚な金属扉の前に辿り着いた。


その扉には、一見して意味を成さない記号列が浮かんでいた。翔が目を凝らすと、それはある種の思念コード――人間の脳波を通して解錠するタイプの“鍵”であることに気づく。


「お前が開けろってことか?」


女は再び頷いた。


「君はもう“接続”されている。この世界に干渉できる力を持ち始めている。最初の扉は、君自身にしか開けられない」


翔は、扉の前に立ち、意識を集中した。


その瞬間、脳の奥にある“何か”が共鳴した。


扉の記号が光を放ち、コードが音もなくほどけていく。鍵穴などないはずの扉が、スライドして静かに開いた。


その向こうに広がっていたのは――


“失われた都市”だった。


無数のスクリーンと光学コードが交差する空間。

ドローンの残骸、再構築されたAI端末、古い書籍と、新しい記録媒体。

そして、その中心には十数人の人影があった。


男女、老若問わず。

みなスコアを剥奪され、存在を抹消された者たち。

“レイヤー”――ファントムとなった人間たち。


「ようこそ、神崎翔」


そう声をかけてきたのは、年配の男だった。白髪で、片腕を義手に換えたその人物は、翔をまっすぐに見つめていた。


「俺は堂島 晴弘。レイヤーの一指導者にすぎないが、君の覚醒には特別な意味がある」


「……意味?」


「君が見たもの。思念ネットワークに触れたのは、偶然じゃない。君の脳は、社会の監視系とは異なる“旧階層”の情報に接続される構造を持っている。我々はそれを【外部型アクセス適合者】と呼んでいる」


翔は、言葉の意味を咀嚼しようとする。


「つまり……俺は、人の記憶や思考に……?」


「アクセスできる。そして、書き換えることすら、いずれは可能だ」


静寂が降りた。


それはまるで、言ってはならない禁句を耳にしたような感覚だった。


堂島は、続けた。


「君が生まれた時期――2030年前後から、出生者の一部に特殊な脳構造が見つかっている。

政府はそれを“非適合者”と分類し、抑制用ワクチンや教育干渉で意図的に能力の発現を防いできた。

だが、ごく一部はその干渉を超えて、覚醒する」


「……それが、俺だった」


翔が呟くと、堂島は深く頷いた。


「君は、希望だ。だが同時に、政府にとって最も危険な存在でもある。

気をつけろ、彼らはもう“お前の存在”を察知している」




レイヤーの中には様々な人々がいた。堂島と名乗った人物は彼、彼女らを翔に紹介していく。


・かつて国立AI研究所で開発主任をしていた男「九重   祐」

・通信遮断装置を作る女性技師「敷島 みお」

・政府側の監視官から転向した少年「堀川 蒼汰」


彼らはいずれも、「真実を知った者」だった。


みおは翔に、半崩壊した都市マップを見せた。


「私たちは、現実を見てる。スコアで隠された“隔離区”の存在を、あなたも知らないでしょ?」


「隔離区……?」


みおは頷いた。


「都市の“表層”から切り離された場所。疑問に思ったことはない?この社会から落伍したらどうなるのか。

スコアが0になった人間たち、AIに従わなかった者、障害とされた記憶を持つ者――全部、あそこに押し込まれてる。

社会は、人々を簡単に殺さない。存在を、無かったことにするの」


翔は、背筋が冷たくなるのを感じた。


そして理解した。

自分がいま立っているのは、国家と人間の“真実の境界線”の上なのだと。



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