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第九話 実りの庭(Nine of Pentacles)
陽の射す丘の上、広大な庭園にひとりの女性が佇んでいた。
彼女の名はナリア。かつて旅人だったその人は、今ではこの地の守り人として暮らしていた。
「この庭はね、私が十年かけて育てたの」
レオは目を見張った。手入れの行き届いた木々、果実をつける枝、風に揺れる花。
それは単なる“景色”ではなく、彼女の人生そのものが刻まれていた。
「ひとりでここまで?」
「ええ、でもね、ひとり“だけ”じゃない。季節、陽射し、雨、すべてと一緒に育てたの」
ナリアの目は優しく、そしてどこか誇らしかった。
レオは思う。努力が報われる瞬間とは、たった一度の“成功”ではない。
それまでのすべてを慈しめる心――それこそが“本当の実り”なのだと。