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第二話 揺れる天秤(Two of Pentacles)
市場の広場で、青年が器用に二枚のペンタクルを手の中で回していた。
片手で農具の修理、もう片手で取引の計算――目まぐるしい日常を軽やかにこなす姿は、まるで踊るようだった。
「俺の名前? バランさ。何でも両立が得意なんだよ」
レオは彼の手際に驚きつつも、どこか不安を感じていた。
「……そんなに全部、抱えて苦しくないのか?」
バランは笑う。
「本当はギリギリ。でも、それが生きてるってことだろ? 風呂も飯も休憩も、あと回し!」
レオは思った。現実とは、理屈じゃ割り切れない忙しさと、それを“笑ってこなす強さ”のことかもしれない。
ふたつのペンタクルが空中でくるりと回り、今日という一日をうまくまとめていた。