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第一話 実りの種(Ace of Pentacles)
朝露の残る畑の真ん中に、小さな穴が掘られていた。
その中心には、金色に輝く“ペンタクル”――五芒星の刻まれた種のような硬貨が、そっと置かれていた。
「それは、願いじゃない。始まりだ」
エルドがそう語る。土に手を突っ込み、丁寧にそれを覆う。
「願うだけじゃダメだ。蒔いて、待って、水をやって、それでも芽が出るとは限らねぇ。けど、それでもやる。それが“現実”ってもんだ」
レオは手を汚し、彼の隣で土をかぶせる。
火のような衝動でも、水のような情でも、風のような理でもない。
これは、ただ“積み重ねる”という行為だった。
「育てるってのは、信じることだ」
エルドの言葉が、心の中に静かに根を張った。