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第十二話 風切る疾走(Knight of Swords)
荒野を切り裂くように、ひとりの騎士が馬を駆っていた。
背筋を伸ばし、剣を前に突き出して。彼の眼差しには、迷いが一切なかった。
名はヴァリス。風の国で“真実を貫く槍”と呼ばれた騎士。
「真実にたどり着くには、時に速度がすべてだ」
レオは問いかける。
「速さだけで、本当に見えるのか?」
ヴァリスは笑い飛ばした。
「止まってるうちに逃げる真実もある。動きながらじゃなきゃ、つかめねぇものがあるんだよ!」
その言葉には勢いと自信、そして若干の危うさもあった。
だが彼の剣は、常に前だけを向いていた。
レオはその背を見送る。自分には真似できない。でも――その風が切り開く道があることも、否定はできなかった。