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第十二話 波濤を駆ける(Knight of Cups)
夜の入り江に、黒馬にまたがる若者が立っていた。
鎧を着けず、剣も持たず、ただ胸に一通の封書を抱きしめている。
名はカイオス。感情を伝えるために、何度も拒まれ、傷ついてもなお、伝えることを諦めなかった青年。
「届くかどうかじゃない。伝えたいって気持ちを、伝えることが大事なんだ」
レオは思わず問う。
「それでも拒まれたら……怖くないのか?」
カイオスは微笑む。
「怖いさ。でも、何も言わなければ、想いはずっと水底に沈んだままだ」
レオは彼の背中を見送りながら、自分の中にも“伝えたかった誰か”がいたことを思い出していた。
感情を抱くこと。表に出すこと。そのすべてが、勇気の証だった。