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第十一話 心の芽吹き(Page of Cups)
湖のほとり、小舟の上でひとりの少年が魚と話していた。
「ねぇ、今日の水、ちょっと冷たいね」
レオが声をかけると、少年は驚いたように振り返った。
「魚と話せるんだよ、心を静かにすると声が聞こえるの」
その名はティル。幼く無邪気な彼は、水面に向かって語りかける繊細な心を持っていた。
「感情ってね、生きてるんだ。優しくすれば、ちゃんと返ってくる」
レオは思った。ティルはきっと、まだ世界の残酷さを知らない。けれど、それが彼の“強さ”でもあった。
「君の心は、まるで……芽吹きかけた若葉のようだな」
「うん。ぼく、自分の気持ち、大事に育ててみたいんだ」
その言葉に、レオの中にも忘れていた何かがそっと芽を出した。
未熟な心の美しさが、確かにそこにあった。