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第十話 水に満ちる家(Ten of Cups)
山を越えた先、レオはある小さな集落に辿り着いた。そこでは家族が笑い合い、子どもが遊び、夕暮れにはみなで食卓を囲んでいた。
「……なんて穏やかなんだ」
村人は皆、あたたかな目でレオを迎えてくれた。誰も彼のことを知らないのに、まるで昔からの仲間のようだった。
「ここには争いも、誤解も、遠ざける言葉もない。ただ、ありのままを受け入れる場所がある」
レオはふと、旅の中で失ったものを思い出した。けれど、それ以上に“ここにあるもの”に胸を打たれていた。
「こういう幸せが……本当に、あるんだな」
ミレナが小さく笑った。
「心の旅は、たまにこんな場所に辿り着く。けれど長居しすぎると、再び歩き出すのがつらくなるわよ」
レオはうなずき、目に映った幸せを胸に刻んだ。
これは通過点。でも、決して忘れない場所だった。