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第八話 水際の決断(Eight of Cups)
夜、静かな湖の縁で、レオは八つの杯を背にして立っていた。
それは旅の中で手にしてきた、思い出や絆の象徴。整然と並べられたそれらは、まるで完成された風景のように美しかった。
けれど、レオの心は動いていた。
「このまま、ここにいても……俺は、もう前には進めない」
それは贅沢な迷いだった。満たされた場所を離れることは、満たされぬ何かを求めている証。
「去ることは、裏切りじゃないわ」
ミレナの言葉が背中を押す。
「そのすべてを愛したまま、手を振って進めばいい」
レオは一歩、湖を背にして歩き出す。
感情を置いていくのではなく、連れていく。名残惜しさごと、自分の一部として。
月明かりの下で波が静かに揺れていた。次の場所へ向かうための、決意の揺らぎだった。