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第五話 さよならの水音(Five of Cups)
雨の湖畔。灰色の空の下、レオは倒れた三つの杯を前に立ち尽くしていた。
まるで、そのまま時が止まってしまったかのように。
ノアの姿は、そこにはなかった。
数日前、ふたりは別れた。理由ははっきりしない。ただ、言葉が交わられず、そのまま離れてしまった。
「俺が……選ばなかったから、か」
自分で手放したはずなのに、胸の奥が水底に沈んだように重い。
そこへミレナが現れる。レオの肩にそっと手を置いて、指差した。
「倒れた杯ばかりを見ていると、まだ立っているふたつに気づけないの」
レオは振り返る。そこには確かに、揺らがぬ水を湛えるふたつの杯があった。
それだけで、すぐに心が満たされるわけじゃない。でも、少なくとも“終わりだけじゃない”と、思えるようになった。