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第二話 揺れる選択(Two of Cups)
川のほとり、倒れかけた木の下に、ひとりの青年がいた。名はノア。
彼は静かに二つの杯を手にし、そのうちのひとつをレオへと差し出した。
「ひとりで歩いてきたなら、そろそろ誰かと火を分け合ってみないか?」
レオは一瞬ためらう。だがノアの瞳には、利害も、損得もなかった。ただ、信頼という名の無防備なまなざしだけが、そこにあった。
杯と杯がふれあい、静かな音を立てた瞬間、心の奥に柔らかな波紋が広がる。
「こんなふうに、気持ちって……重なるんだな」
ノアは微笑んだ。
「心は、閉じてるときより、開いてるときのほうが強いんだぜ」
その言葉に、レオの胸に灯った杯の水が、ゆっくりと温かさを増していった。