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第十二話 疾風の炎(Knight of Wands)
夕暮れの荒野を、ひときわ早く駆け抜ける影があった。
黒馬に乗り、背に赤いマントをはためかせる青年――名はラズエル。風のように早く、火のように激しかった。
レオは彼に呼び止められる。
「お前、旅の者だな? 目的地があるなら止まってる暇なんてねぇぞ!」
息を整える間もなく、彼は火花のように言葉を吐き続けた。
迷いも、躊躇もない。まっすぐに、ただ進むことだけを信じている。
「怖くないのか? 燃え尽きることが」
レオの問いに、ラズエルは笑った。
「怖いさ。でも、俺の火は止まれない。進まないと燃え残る。それが一番、怖ぇんだよ!」
レオはその背に、かつて自分が追いかけた“衝動”の影を見た。
彼のようにはなれない。でも、彼の火が照らす道が、確かに次の一歩を導いていた。