3/82
第三章 沈黙の神殿 ― 2 女教皇(The High Priestess)
白い霧に包まれた森を抜けると、静寂の中に神殿が現れた。石造りの回廊、白と青の布が揺れる。
レオが中に足を踏み入れると、冷たい空気が頬を打った。神殿の奥、祭壇の前に立つ一人の女性。
「あなたが来るのを待っていた」
静かな声だった。彼女の名は、アレティア。深い紺の衣をまとい、その手には一冊の古書――トーラーを抱えていた。
「あなたはこれから多くを知ることになる。けれど……知るだけでは、真実には届かない」
レオは眉をひそめる。
「じゃあ、何が必要なんだ?」
アレティアは微笑んだ。
「静かに、心の声に耳を澄ますこと。知識とは、内から湧き上がるものでもあるのよ」
祭壇の前に咲く月草の花が、わずかに揺れた。
「直感を恐れてはならない。目に見えぬ真実も、この世界には確かに存在するのだから」