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第十三章 静なる逆転 ― 12 吊るされた男(The Hanged Man)
山を越えた先にあったのは、一本の大樹。枝に逆さまに吊るされた若者が、何かをじっと見つめていた。
名はアシェル。かつて旅人だったという。
「お前は、すべてを得ようとしていないか?」
レオは答えに詰まる。アシェルは笑った。
「俺は何もかも手放して、ようやく見えたんだ。この世界が逆さまなのは、俺たちの目が曇っているからだとな」
逆さまの視点から見えたのは、世界の裏側。苦しみの意味、無力の強さ。
「動けぬ時間こそ、魂が動く」
その言葉を胸に、レオは再び地を踏んだ。