やっと気がついた
「スリーズ、あなたはここにいてはいけません。退室なさい」そう言うとスリーズは
「お姉さまひどいですわ」と泣き出した。そして部屋を走り出て行った。部屋を出る前にしっかりと王太子殿下を目を合わせたりして・・・それをスリーズの侍女のレオナとわたしの侍女のアクアが追いかける。
「君は妹にひどいことを言うんだね。いつも冷たいその顔なんか見たくない」と王太子殿下は言うと三人を追いかけて行った。王太子の侍従コピーオも続いたが、部屋を出る前にわたしに同情するような眼差しを向けた。
一人になった部屋。テーブルの上のカップが三つ。テーブルに飾られたピンクのガーベラ。
ガーベラ!カップ!あっ・・・映像と声が流れて来た、目まぐるしく入れ替わるそれには、わたしと王太子殿下。妹のスリーズと殿下。お母様とスリーズ。スリーズとお兄様。成長したわたしと殿下。成長したスリーズ。スリーズに微笑みかける殿下・・・ウエディングドレス・・・
「わたし、おかしい?」「おかしくなった?」と口に出して見る。
わたし、思い出したってこと?予知してるの?違う。思い出したところじゃない・・・一度じゃない・・・これって・・・
落ち着いて思い出した。王太子が帰ったあとでスリーズが言いつけて侍女が二人ともわたしが意地悪を言ったと証言してあの女からぶたれるんだ。でも前と同じにしない。ぶたれてあげるけど利用させて貰う。
窓から見てると王太子とスリーズが手をつないで戻って来る。お茶の続きをしようとするわね。わたしは部屋をでると
「お母様ーー」と大声を出しながら、お母様の部屋を目指した。
「お母様ーーーー」するとあの女の侍女が出て来た。お前だけじゃ足りない。
「お母様ーー」と言うとあの女も出て来た。
「キャーーーお母様、ごめんなさいーーー許してーーー」と言いながらわたしは玄関へ向かった。記憶通りならと、わたしは侍女に捕まった。
「どうして一人なの?」とあの女が言うので
「スリーズが同席したのを注意したら泣き出して出て行ったのを全員が追いかけて行ったからです」と答えると
「いつも言っているでしょう。妹をいじめるのはよくないって」
そこで玄関が開いたが、あの女は気がつかずにいつものようにわたしをぶった。
わたしは普段は立ったまま耐えるが、わざと床に倒れた。
「申し訳ありません。お母様。もうお許し下さい。申し訳ありません。申し訳ありません」と繰り返しながら、体をお越し床に頭をこすりつけて
「申し訳ありません。申し訳ありません」と謝った。するとスリーズが
「ほんと、お姉さまっていつも、いつも駄目ねぇ。ほんと何度ぶたれてもわからないんだから。ねぇ」と最後は侍女二人に同意を求めた。
床に頭をこすりつけているから、様子がわからないけど・・・どうなってるのかな?王太子と侍従の靴が見えるから、これを目撃してるはずだけど・・・
「侯爵夫人、いつもこうなのかい」と王太子の声が聞こえた。あの女がはっと息を飲んだ。さすがにまずいと思ったみたい。わたしはゆっくり顔をあげた。あの女の表情をみたいから。
「そうなんですよ。いつも、こうされないとわからないんです。わたしに逆らうから。ねぇ」スリーズが得意げに言うと侍女に同意を求めたが、侍女は目を泳がせている。
王太子の侍従のコーピオが手当てをしませんと、とおろおろしている。ここで王太子がやっと、わたしに手を差し出すが、無視して立ち上がった。
「いつも自分で立ち上がりますし、ひどいことを言う冷たい顔の女なんかに手を差し出したくないかと。手当ては必要ありません、いつものことです。冷やしておけばいいんです」と言いながら、口を拭うと血が付いていた。それに気がついたわたしは、がばと床に身を伏せ
「お母様、申し訳ありません、絨毯を血で汚してしまいました」と言ったが
「なんですか。あなたは・・・なんですか?恨みでもあるの」と言った。間が悪いですよお母様・・・絨毯のことだと思われますよ。
「申し訳ありません。お母様・・・絨毯を・・・そんなつもりでは」そんなつもりです。恨みがあります。
「いいから、部屋へ行きなさい」と言われてわたしはふらふらと立ち上がると自室に向かった。あの女とスリーズ以外はおびえている。
「あの?イベール様。侍女はどちらに?」とコピーオが言うので、そばで立っているアクアに目を向けた。コピーオが「え?」とアクアを見て驚いたのを見てから、一人でふらふらと部屋を目指した。
さぁこれからどうなるか?頬を冷やしながら思い出して、考えた。
何回目だろうか?わたしは勘当されて平民になったことがある。教会に身を寄せて暮らした。それなりに楽しい生活だった。でもなにかが起こった・・・思い出せないけどそれはどうでもいい。あの女への恨みを世間に知らせればいいのだから・・・