第7話 6回のノック
「ユート、城下町で何するの?」
アシーディアの言葉を信用して、ヴェンテ城下町まで来たものの、この町で具体的に何をすれば良いかは分からない。
「とりあえず・・・メシでも食って考えるか」
「さんせーい!」
はずれの森の洞窟を出発してから、何も食べていないユートとウィーダは、ヴェンテ城下町の一角に店を構えるレストランに吸い込まれていった。
「これ!おいしー!」
ウィーダは幸せそうな顔をしながら、両手に持った〈ミストコンドルのフライドチキン〉を頬張っている。
その見事な食べっぷりは、見てるこっちまで気分が良くなる。
「お待たせしました。炒めコーメです」
ユートの注文した〈炒めコーメ〉なる料理がテーブルに届いた。
コーメというのは異世界エフィラムにおける主食。
見た目は白米に近い食べ物だ。
それを炒めたとなれば、もはやチャーハンではないか?
2日間も白米を口にしていないユートの中の日本人の血が騒ぎ、メニューを見るや否や〈炒めコーメ〉を注文したのだ。
「おい・・・何だこれは・・・」
テーブルに置かれた炒めコーメの姿は、ユートの知るチャーハンとは似ても似つかない姿であった。
茶色のパラパラとした粒はコーメである事には違いないが、水分がまるでなく、炊いたコーメでは無いことは確実だ。その雰囲気は炒り米に近いような印象を受ける。
炒めコーメを一粒、口に運ぶ。
その味は確かに香ばしく美味しい・・・が、求めていた〈炒めコーメ〉はコレでは無いのだ。
ユートは大きなため息を吐きながら、炒めコーメを口に運ぶのであった。
「お会計、65ヴェリスとなります!」
「65ヴェリス!?」
炒めコーメは5ヴェリスだったはず・・・?
会計に違和感を持ったユートは食事の内訳を確認した。
〈ミストコンドルのフライドチキン〉×10
〈炒めコーメ〉×1
計 65ヴェリス
「・・・・・・」
「お支払いお願いします♪」
ユートは支払いを済ませてレストランを出ると、ウィーダに説教を始めた。
「ウィーダ、どう考えて食べ過ぎだ」
「おいしかったからー」
「次からは注文する時に俺に確認しろ」
「はーい!」
話を聞いているのか定かでは無いが、ウィーダは元気な返事を返した。
「冒険者ギルドに向かおうと思うが、ウィーダはどうする?」
「うーん・・・ついてくー!」
冒険者ギルド。
モンスターの討伐依頼やアイテムのトレード、エフィラムクロニクルでは、他プレイヤーと交流するにはうってつけの場所だった。
異世界エフィラムにおいても、情報交換を行う場所としては最適だろう。
――ヴェンテ冒険者ギルド 入口前
「ここだな」
ギルドの入口に到着したユート達は、軋む木製の扉を開け、中に入った。
「うっわー! 人がすごい多い!」
ギルドの中は想像以上の喧騒に包まれており、ヴェンテ王国中の冒険者を一同に集めたのではないか?と思えるほどの繁盛ぶりだった。
「紋章に詳しい人を知ってるか?」
「そんなもん知らねぇよ!」
「紋章について・・・」
「うるせぇよ!酒が不味くなるだろうが!」
「紋章に詳しい人知ってるか?」
「あら・・・カワイイ子・・・食べちゃおうかしら?」
「・・・失礼する」
ギルド内で紋章に詳しい人がいるか、聞き込みを行ったが、有用な情報を得ることは出来なかった。
そもそも大半の冒険者が酒に酔っている。
この状態ではまともに話をすることは不可能に近い。
「何かお困りでしょうか?」
ギルドの受付嬢が俺たちの姿を見かねたのか、声をかけてくれた。
「紋章に詳しい人を探しているんだが、そういった情報はあるか?」
「紋章・・・ですか、少々お待ちください」
受付嬢はそう言い残すと、カウンターの裏手に向かっていき、何やら水晶玉に向かって何か喋っている。
恐らくは、遠方の人物と会話する魔法だろう。
数分後、水晶玉と会話をしていた受付嬢が戻ってくると、2つ折りの紙切れを手渡してきた。
「こちらをどうぞ・・・」
「これは・・・?」
「中身はご自身でご確認ください、それでは」
紙切れを渡した受付嬢は、そそくさとカウンターの裏に回ると、冒険者に笑顔を振りまきながら通常業務に戻ったのだった。
「一体何なんだ・・・?」
ユートは受付嬢から手渡された2つ折りの紙切れを開いた。
『2階の最奥の部屋、ノックは6回』
意味不明な内容。
2階というのはギルドの2階のことだろうか。
ユートがギルド内を見渡すと、確かに2階へと続く階段は存在していて、関係者ではなくても立ち入れるようだ。
「まあ、行ってみるか」
「どこ行くのー?」
「ウィーダ、ちょっと待っててくれ」
この紙切れは〈紋章に詳しい人物〉を探していた俺に対してのメッセージ。
ウィーダを連れていけば、未知の危険に巻き込む恐れがあると考えたユートは、1人で向かうことにした。
「ここか・・・?」
ギルドの2階の雰囲気は1階とは打って変わり、暗く陰鬱だった。
紙切れに記された最奥の部屋はここだろうか。
目の前には、髑髏や骨といった悪趣味な装飾が施された扉が鎮座している。
他の扉と差別化を計るためだけなら、悪趣味にする必要は無いだろう。ユートは得も言えぬ恐怖を感じたが、意を決して紙切れの通りにノックを始めた。
1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・6・・・
紙切れの指示通りに6回のノックを行った。
「・・・くふふ、入りなさい」
部屋の中から聞こえてきた女の声は、奇妙な笑い声と共に、部屋に入るように促す。
ユートはドアノブに手をかけて捻ると、ガチャリとドアが開いたことを示す音が廊下に響き渡った。