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第6話 王女プリス

 ――ヴェンテ王国領 街道


 「5000ヴェリス・・・5000ヴェリス・・・」

 

 ウィーダは5000ヴェリスを逃したことが相当ショックだったのか、空言を呟きながらヴェンテ城下町への街道を歩いていた。


 「改めてお礼を言わせてください。依頼を受けていただいてありがとうございます」

 「いや、俺たちも王城に用がある。そのついでだ」

 「それでも・・・嬉しいです」


 マルタローゼとヴェンテ城下町を繋ぐ街道は整備されており、そうそうモンスターが出現することは無さそうであった。

 

 「エフィラムクロニクルでは、こんな街道は無かったんだがな・・・」

 

 エフィラムクロニクルと異世界エフィラムの細部が異なることについては理解していたが、マルタローゼの変貌ぶりには驚くばかりであった。

 更にはこの街道、これもエフィラムクロニクルでは存在しなかった。

 マルタローゼが発展した影響とも考えられるが、そもそもマルタローゼは何故発展しているのか?

 ユートの脳内に疑問の種が芽吹こうとした瞬間。


 「ユート!下がって!」

 

 ウィーダの緊迫感がある声によって、ユートは現実に引き戻された。

 少女を左手で抱えながら、空を見上げると、翼をはためかせながら、こちらの様子を伺っているハーピーの姿があった。


 「ハーピーか・・・」

 

 ハーピーはヴェンテ王国領全域で生息が確認されている、翼を持った女性の姿をしたモンスター。

 エフィラムクロニクルにおいては、危険度が高くは無いが、積極的にプレイヤーを襲いに来る面倒なモンスターだ。

 

 「ウィーダ!やれるか?」

 「うん!」


 炎属性には水属性が強く。水属性には雷属性が強い。

 エフィラムクロニクルには属性相性の概念があり、弱点を突くことが出来れば、格上の相手も戦略次第で倒すことが可能だ。

 逆もまた然り、属性相性を軽視すれば、格下の相手に下剋上を起こされることも日常茶飯事だ。

 

 ハーピーの属性は〈風〉に対して、ウィーダの得意とする属性も〈風〉である。

 同じ属性同士がぶつかり合えば、その戦闘はレベル差が如実に現れる。

 レベル20のウィーダにとっては、ハーピーなど相手にもならないだろう。


 「ウィンド・サイクロン!」


 ウィーダの放った風魔法はハーピーの脆弱な肉体をバラバラに砕いた。


 「余裕だねー」

 「ウィーダさんはお強いのですね!」


 少女は戦闘を終えたウィーダに駆け寄ると、目をキラキラさせながら、楽しそうに話し始めた。


 ハーピーとの戦闘を終えて幾ばくかすると、ヴェンテ城下町の城門が目の前に見えてきた。


 「無事に着いたな」

 「ユートさん、ウィーダさん。本当にありがとうございました!」


 少女はドレスの裾を手に持ち、上品にお辞儀をした。

 その姿は小さいなりに、確かな礼儀が備わっており、品格を感じさせる所作であった。


 「お嬢ちゃん、そういえば名前を聞いてなかったな」

 

 ユートは今更ながら、少女に名前を尋ねた。マルタローゼで出会ってから、結構な時間を共に過ごしたが、護衛を依頼した少女の名前を知らなかったのだ。


 「そ、そうでしたわね・・・」

 

 少女が自らの名前を口にしようとしていると、城門の奥からドタドタと大勢の乱れた足音が聞こえてきた。


 「プリス様!どこに行っておられたのですか!」

 

 現れたのは、見るからに格式の高い執事服に身を包んだ男性と、白銀の甲冑に身を纏った騎士が数人。


 「じいや、私はどこにも行ってないですわ?」

 「プリス様・・・その者達は?」

 

 じいやと呼ばれている男の言葉によって、数人の騎士は直ぐにでも攻撃を開始できる姿勢を取りながら、一斉にユートたちに目線を向けた。

 城門前は一触即発の空気だ。


 この時点でユートにはある程度、プリスと呼ばれる少女の正体について、検討がついていた。

 この場を丸く収めるために、ユートは行動を開始した。


 「俺の名前はユート。城門近くにてプリス様を見かけたため、共に王城へと向かっているところです」

 「そ、そうか。ご協力感謝する」

 

 プリスと呼ばれた少女は、恐らくはヴェンテ王の血縁だろう。

 プリスは理由が何かは知らないが、王城を飛び出した。

 居なくなったプリスを探すため、家来は城下町を見回ったが、全くもって見つからなかった。

 家来たちは捜索範囲を広げようと城門前に来たが、そこで見知らぬ男とエルフの2人組と一緒にいた所を発見したといったところか。


 「王女様から目を離さないでやってくれ」

 

 騎士の1人にプリスを引き渡そうとすると、プリスがユートの膝あたりをトントンと叩いて、屈むようにジェスチャーをしている。

 ユートが屈むと、プリスが耳打ちで話しかけてきた。


 「・・・本日は楽しかったです。コレ、受け取ってください」


 コソッと手を差し出してきたその小さな手のひらの中には、500ヴェリス紙幣が小さく畳まれていた。

 

 「おい、報酬は100ヴェリスのはずだ」

 「私からの気持ちです」


 ユートの手の中に500ヴェリス紙幣を無理やり捩じ込むと、プリスは微笑みながら立ち上がり、近くの騎士の手を取って歩き出した。


 「プリス様!城に戻りますぞ!」

 「はーい・・・」

 

 じいやの言葉に不服そうな返事をすると、プリスは城門の中に消えていった。


 「プリスちゃんって言うんだねー!可愛い名前ー」

 

 ウィーダは能天気にもプリスの名前を知れたことを嬉しがっていた。その正体がヴェンテのプリンセスであることも知らずに。

 

 「ウィーダ、プリスは王女様だぞ?」

 「???」

 「まぁいいか・・・俺たちも城下町に入るぞ」

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