第5話 護衛任務
ユートとウィーダはヴェンテ王城に向けて、はずれの森を歩いていた。
辺りの森林の様相が乾燥しきった樹木から、瑞々しく茂る植物に変わってきていた。
はずれの森は〈アシェル帝国〉と〈ヴェンテ王国〉の国境を跨ぐ巨大な森である。
アシェル帝国は炎を司る国であり、はずれの森においても、アシェル帝国に近い場所は植物が育ちにくいのだろう。
周りの植物が瑞々しくなったという事は、それだけヴェンテ王国領方面に歩みを進めており、ヴェンテ王城に近づいている証明でもあった。
「あ!マルタローゼだよー!」
ウィーダが声を上げると、森を抜けた先に村が見えた。
はずれの森近辺で最も栄えている村〈マルタローゼ〉だ。
「ユート!少し寄っていくー?」
「・・・」
今朝の出発前、ヴェンテ王城に一刻も早く到着したいユートは、マルタローゼに寄る暇など無いと考えていたが、ウィーダが懇願するような顔でこちらを見つめてくるので、少しばかりの寄り道をすることにした。
「少しだけな」
「やったー!」
ユートたちはマルタローゼへと歩みを進めた。
「コーメが安いわよ!」
「今ならこのダガーが10ヴェリスだ!」
「イビルボアの霜降りが入荷したぞー!」
マルタローゼはユートの想像以上に繁盛していた。
エフィラムクロニクルでのマルタローゼは閑散とした印象であったが、異世界エフィラムのマルタローゼは、モンスターの食材や武器を店頭に並べた市場がいくつも立てられており、様々な人種が行き交う喧騒は、人間の世界では味わうことが出来ない不思議な感覚をユートにもたらした。
「ウィーダ、マルタローゼってこんなんだったか?」
「うーん。最近は来てなかったけど、こんな感じじゃない?」
的を得ないウィーダの回答に、ユートはマルタローゼの得も言えぬ違和感を解消できずにいた。
「あ、あの・・・冒険者さんですか?」
見知らぬ女性の声にユートは後ろを振り向くが、そこには誰もいない。
「こ、こちらです・・・!」
再びの声が地面付近から聞こえてきた。
目線を下に向けると、綺麗なドレスに身を包んだ小柄な金髪の少女がこちらを見つめていた。
「ああ、すまない。どうしたんだ?」
金髪の少女はおずおずと言葉を口にした。
「冒険者さんでしょうか・・・?」
ユートは今の自分が冒険者なのか疑問ではあったが、客観的に見た際に、“一応“冒険者だろうと判断し、言葉を返した。
「た、多分な」
少女は表情をぱあっと明るくして、満面の笑みで話を続けた。
「冒険者さん!折り入って頼みがあるのですが」
「何だ?」
「私をヴェンテ王城まで護衛して欲しいのです!」
少女の言い分はこうだ。
ヴェンテ城下町から、お使いのためにマルタローゼまで来たが、帰りの馬車を逃してしまった。
このままだと、モンスターが彷徨く街道を1人で歩かなければならない。
その帰り道を護衛してくれる冒険者を探しているとの事だった。
「だ、ダメでしょうか・・・?」
「いや、引き受けよう」
「あ、ありがとうございます!」
ユートとしてはヴェンテ王城に向かう予定であるため、ヴェンテ城下町まで同行することに何の問題も無かった。
道中のモンスターもウィーダの力があれば、簡単に撃退する事が可能という判断だ。
「それで、報酬は何ヴェリスだ?」
ヴェリス・・・異世界エフィラムにおける統一通貨だ。
子供とは言えど、れっきとした冒険者に対しての依頼だ。
仕事を引受けるからにはそれ相応の対価を求める。
現実世界においても異世界エフィラムにおいても不変のルールである。
「おし・・・じゃなくて!城下町に戻ったらお支払いしますわ!」
「いくらだ?」
「え、えーと・・・5000ヴェリスぐらいでどうかしら?」
「ご、ご、5000ヴェリスー!!!???」
5000ヴェリスという言葉を聞いたウィーダは大袈裟とも言えるリアクションをすると、天を仰いで仰向けに倒れてそのまま気絶した。
ウィーダが気絶するのも無理はない、5000ヴェリスというのは非常に高額だ。
低レベルのモンスターから子供を護衛する依頼の報酬が5000ヴェリスというのは破格すぎるのだ。
「お嬢ちゃん。それはいくらなんでも・・・」
「分かりましたわ!50000ヴェリス払いますわ!」
「は・・・?」
ユートは興奮している少女に落ち着くように促し、最終的には、相場より少し割高の100ヴェリスで手を打つことにした。