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第3話 ウィーダ


 パチパチパチ・・・


 炎に焚べられた薪が弾け、火花を散らす音で悠斗は目を覚ました。

 

 「ここは・・・?」

 

 悠斗が上体を起こすと、辺りは暗闇に包まれていた。恐らくは意識を失っている間に夜になったのだろう。

 暗闇の中にはゴツゴツとした岩肌が至る所に見受けられた。現在地を推測すると、はずれの森にいくつか点在する洞窟だろう。


 「痛・・・!」

 

 突然、鈍い痛みが右腕を襲う。

 その痛みの正体を確認するべく、悠斗は恐る恐る目を向けると、右腕は包帯でぐるぐる巻きにされていた。


 「あー!やっと起きたー!」

 

 エルフの少女の声が洞窟の入口だと思われる方向から聞こえてきた。この包帯は彼女が巻いてくれたのだろうか。


 「まだ動いちゃダメだよー!」

 「あ、ああ」

 

 エルフの少女の言う通りであった。

 負傷した右腕を少しでも動かすと激痛が走り、到底使い物にはならなかったのだ。


 「この包帯は?」

 「うん!回復魔法は使えないから応急処置だけど」

 「助かった」

 

 実際のところ彼女がいなければ、今頃はずれの森で野垂れ死んでいただろう。応急処置を行ってくれたことに感謝する他ない。


 「旅人さん、名前はなんて言うの?」

 

 そういえば名前を名乗っていなかった。

 人間の名前を名乗って良いものか・・・と、少しの間逡巡したが、悠斗はそのまま名乗ることにした。


 「俺はユート」

 「ユート!あたしはウィーダ!」

 

 エルフの少女はウィーダと名乗った。

 エフィラムクロニクルには〈ウィーダ〉という名前のNPCキャラクターは居なかったはずだ。

 となると、エフィラムクロニクルと異世界エフィラムは完全に同じ世界という訳では無いのだろうか。


 「ウィーダ、この世界は今何年だ?」

 「今は〈ハマ歴4年〉だよー」


 何かがおかしい。

 エフィラムクロニクルの世界設定は〈ハマ歴2年〉だったはず・・・異世界エフィラムの現在が〈ハマ歴4年〉だとすると、アシーディアの説明と辻褄が合わないのだ。


 異世界エフィラムとエフィラムクロニクルの差異について脳内で考察を進めるユートであったが、その鼻腔を何とも香ばしい肉の香りが刺激した。

 

 「そろそろ食べれるかなー?」

 「それは何だ?」

 「サベージウルフの焼肉!」


 ウィーダは逞しいことに、昼間に撃退したサベージウルフの肉を焚火でこんがりと焼いていたのだ。


 「サベージウルフって食えるのか?」

 「うん!おいしーよー!」


 エフィラムクロニクルでは討伐したモンスターを食べるといったシステムは存在しなかった。

 異世界エフィラムに転送されてから何も食べていなかったユートは、急激な空腹感に襲われた。


 「貰ってもいいか?」

 「どうぞー!」


 ウィーダから木の枝に刺さっている丸焦げの肉片を渡されたユートは、肉片のあまりの黒さに少し躊躇しながらも、その黒い塊を口の中に放り込んだ。


 「・・・意外とイけるな」

 「でしょー!まだいっぱいあるよー!」


 サベージウルフの肉は独特の臭みはあるが、それを帳消しにする程の濃厚な旨みに溢れており、噛めば噛むほど虜なるような味だった。

 臭みを消すって意味で言えば、ほとんど丸焦げに状態である、この焼き方が正解なのかもしれない。


 「・・・もっと食っていいか?」

 「どうぞー!」


 その後、ユートとウィーダは空腹感を微塵も感じなくなるまで、サベージウルフの焼肉を堪能した。


 「ウィーダ、俺はストックを失ったのか?」

 腹ごしらえを済ましたユートは、本題について切り込んだ。

 サベージウルフに襲われて大量出血の末に意識を失い、その結果、ストックを失ってしまったのか。

 介抱してくれたウィーダであるならば、その答えを知っているだろうと、ユートは確信していたのだ。


 「うーん・・・多分失ってないと思うよ」

 「多分?」

 「だって、ストックを失ったらケガが回復するでしょ?

 でもユートのケガは治ってないからー」


 異世界エフィラムにおいても、ストックの仕様はエフィラムクロニクルと同じらしい。

 ウィーダの話が正しければ、右腕の痛みがストックを失っていないことの証明と言えよう。

 ユートはサベージウルフとの戦闘をストックを失わずに切り抜けることが出来たのだ。


 「ってかユート、紋章でストックの数を見なよー」

 「紋章?」


 〈紋章〉などという見知らぬワードをウィーダはあたかも周知の事実であるように話している。

 エフィラムクロニクルにおいて〈紋章〉という言葉を聞いた事はあまり無かった。


 「紋章って何だ?」

 「もー!まだ寝ぼけてるの?コレだよー」


 ウィーダは左手をこちらに差し出すと、手の甲には魔法陣のような紋様が描かれていた。


 「これ、タトゥーか?」

 「たとぅー?紋章のこと?」


 タトゥーでは無いようだった。

 ウィーダの反応からすると、そもそも異世界エフィラムにはタトゥーの文化が存在しないようでもあった。


 「紋章?があるとストックの数を見れるのか?」

 「当たり前でしょー?どうしちゃったの?」


 ウィーダは左手に描かれている〈紋章〉と呼ばれるタトゥーのようなものに右手で触れると〈紋章〉は淡い光を放ち始めた。

 〈紋章〉から放出された光は、段々と1つの方向に収束していき、空中に見覚えのある形を作っていった。


 ――――――――

 Name:ウィーダ

 レベル:20

 体力:E

 筋力:F

 魔力:C

 敏捷:D

 知能:E

 ストック:3

 習得スキル

 ・ ウォーター・ボール

 ・ ウィンド・カッター

 ・ ウィンド・サイクロン

 ――――――――


 「これは・・・ステータスか」

 「そうだよー!やっと思い出した?」


 ユートの目の前には、エフィラムクロニクルにて幾度となく目にした、ステータス画面が表示されていた。

 体力、筋力、魔力、敏捷、知能。

 その5つのパラメータはエフィラムクロニクルのパラメータと完全に一致していたのだ。


 「紋章を触ればステータスが表示されるんだな・・・」

 そう思ったユートは自らの左手を確認した。

 しかし、左手の甲に紋章は描かれていなかった。念の為に手のひらも確認したが、紋章の姿は見当たらなかった。


 「ウィーダ、紋章って左手にあるんだよな」

 「うん!」

 「俺には紋章が無いみたいだ・・・」

 「うそ!そんなことありえないよー!」


 ウィーダはユートの左手、左腕、背中、下半身をくまなく探したが、紋章は見当たらなかった。


 「包帯を巻いた時に見たけど右手にも無かったよー?」

 「そうか・・・」


 ユートは異世界エフィラムに転送されてから、一抹の不安を抱えていた。

 異世界エフィラムの住人である、ウィーダと話した結果、その不安が現実の物となろうとしていた。


 「俺のストックは1つなのかもしれない・・・」

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