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第2話 はずれの森


 ――???

 あたり一面には草木が茂り、乾いた風が木々の間を駆け抜ける。

 その乾燥しきった森林の一角に悠斗の姿はあった。

 森林を抜ける、強い風が葉と土煙を巻き上げると、悠斗は深い眠りから目を覚ました。

 

 「ここは・・・」


 悠斗はこの場所を知っている。

 間違いない、ヴェンテ王国領だ。


 「俺は本当にエフィラムクロニクルの世界に来たのか?」

 独り言を呟きながら、木々にもたれかかっていた上体を起こすと、目的も無く歩き出した。


 しばらくの間森林を探索した悠斗は現在地がヴェンテ王国領の〈はずれの森〉である事を突き止めた。

 はずれの森はヴェンテ王国領とアシェル帝国領の境目にある森だ。

 この異様に乾燥しきった環境は、風を司る〈ヴェンテ王国〉と炎を司る〈アシェル帝国〉の影響を双方に受けた結果と言えよう。

 現在地が判明したとは言っても、ゲームのようにミニマップがある訳ではなく、正確な位置は把握出来ていない。

 悠斗はヴェンテ王城に向かうのか、それともアシェル帝国領へと向かうのか決めかねていた。


 「アシェル帝国領はレベル的に厳しいか」

 レベル・・・強さの指標。世間一般的なRPGゲームにはほとんど存在し、エフィラムクロニクルも例外では無かった。自らのレベルに不相応なモンスターに挑めば、死あるのみだ。


 「というか、俺のレベルは幾つなんだ?」

 エフィラムクロニクルであれば、STARTボタンを押下すれば、ステータス画面が表示され、画面内にレベルも記載されるのだが、この世界ではSTARTボタンなど存在するはずが無く、悠斗は自らのレベルの確認方法が分からずにいた。


 「それに、問題はストックだな・・・」

 

 ストック・・・一般的なRPGでは存在しない概念で、エフィラムクロニクル独特のシステムだ。

 ストックは最大3つ保有でき、ストックがある内は致命傷の攻撃を受けたとしても、ストックを1つ消費することと引き換えに、HPは即時回復される。

 つまり、ストックがある内はゲームオーバーになることは無いが、ストックが1つの状態で致命傷の攻撃を受けると、その時点でゲームオーバーだ。

 エフィラムクロニクルにおいては、ストックを3つ所持した状態で始まるのだが、異世界エフィラムにおいても同じなのだろうか・・・?


 悠斗は一抹の不安を抱えながらも、はずれの森を歩き続ける。


 「誰かー!助けてー!」

 突然、森の中から助けを求める女性の声が、聞こえてきた。


 「どうするか・・・?」


 エフィラムクロニクルであれば、迷うことなく助けに行くことが出来た。

 しかし、今の悠斗は丸腰に近い状態であった。モンスターに接敵にした場合に何も出来ずにストックを奪われる可能性もある。

 最悪の場合はゲームオーバー。この世界におけるゲームオーバーがどのような扱いは不明だが、死亡とイコールであると考えた方が良いだろう。


 「きゃぁーー!誰かぁー!」


 そうこう考えている内に、女性の声は段々と余裕が無くなっている様に思えた。


 「くそっ!なんで俺がこんな事!」

 愚痴を漏らしながらも、悠斗は女性の声が聞こえる方向に走り出した。


 「はぁ・・・はぁ・・・!大丈夫か!?」

 「あなた・・・誰?」

 

 声の主は長い青髪を持つ、エルフの少女だった。

 正にゲームの世界、といった王道的な展開に悠斗は少しばかり興奮したが、その感情は目の前に迫る驚異によって、一瞬にして冷めるのであった。


 ガルルルル・・・


 「サベージウルフ・・・」

 エルフの少女を襲っていたのは、はずれの森における頂点捕食者、サベージウルフ。

 悠斗の想定する中で最悪のパターンの1つであった。

 撃退するにも武器の1本も持っていない現状では難しいだろう。

 逃げ回っていた所を見ると、エルフの少女の戦闘能力にも期待は出来ない。

 それらから導き出される解決策は1つしか無かった。


 「そこのエルフ、今すぐに逃げるぞ」

 「あ、あたし!?」

 「お前以外に誰がいるんだ、逃げるぞ!」


 悠斗とエルフの少女は一目散にその場から逃げ出した。

 一方のサベージウルフは標的を易々と逃がすはずもなく、走るのが遅い悠斗をロックオンして、追いかけ始めた。


 「エルフ!炎魔法は使えるか!?」

 「使えないー!使えるのは風と水!」

 

 あの手の動物系モンスターは総じて炎に弱い。炎魔法を使えさえすれば、撃退することは容易かったが、使えないときた。

 俺たちの走るスピードではいずれ追いつかれる。サベージウルフを倒さなければ、このままストックを奪われるだろう。


 ガァルル!!!


 そうこうしている内に、サベージウルフが目の前に回り込んで来ていた。

 

 「まずいな・・・」

 エルフの少女が使える魔法は風属性と水属性。

 サベージウルフを相手にするのには心もとない。まともに戦えば負けるのは俺たちだろう。


 「旅人さん!どーするの!?」

 「今考えてる!」


 考えてるとは言ってみたものの、悠斗の思考は手詰まりであった。

 (何か・・・何か、炎を生み出すものは・・・!)


 「・・・なんだ?この匂いは」

 悠斗の鼻腔を、微かではあるが焦げ臭い風が通り抜けたのだ。

 その匂いを嗅いだ瞬間、悠斗は笑みを浮かべてサベージウルフへと向き直した。


 「エルフ!風魔法をあそこに放て!」

 「えー!でもあそこ何にも無いよ!」


 ユートが指さしたのは枯葉の山。そこに向かって風魔法を放てと言ったのだ。


 「いいから頼む!」

 「どうなっても知らないからー!」


 「ウィンド・サイクロン!」


 エルフの少女が放った風魔法は、小さな竜巻を形作り、枯葉の山に直撃した。

 

 「何も起きないじゃんー!」


 小さな竜巻は枯葉を巻き上げ、竜巻の中でカサカサと擦れる音を発していた。

 

 「乾燥気候、枯葉、摩擦」


 枯葉を巻き上げた竜巻の中で極小の火花が散った。

 それを皮切りに、擦れ合う枯葉は連鎖的に火花を散らし、瞬く間に竜巻は炎を纏ったのだ。


 「えー!どうしてー!」

 「乾燥した空気の元で、摩擦が起これば火花が散る。この環境だったら山火事も日常茶飯事だろうよ」


 ガァルル!


 炎を視認したサベージウルフは本能的に危険を感じたのか、悠斗に飛びかって来た。


 「その炎の竜巻をサベージウルフに投げつけろ!」

 「うん!いっけー!」


 エルフの少女が炎の竜巻を放ったと同時に、サベージウルフが悠斗に襲いかかる。

 

 「ぐあっ!」

 

 その凶爪をどうにか腕で払い除けると、体勢を崩したサベージウルフの側面に炎の竜巻が直撃した。


 キャウン!


 サベージウルフがオオカミらしくない可愛らしい悲鳴を上げると、その体は激しく燃え盛り始め、数分もしないうちに、焦げた肉の匂いと引き換えにピクリとも動かなくなった。


 「くっ・・・痛ぇ・・・!」

 サベージウルフを退けたものの、悠斗の腕は凶爪による一撃を受けており、右腕に深い傷を負っていた。


 「ねぇ!大丈夫!?」

 エルフの少女が近寄って来るのを視界には捉えているが、段々とその視界に濃い霧がかかっていくのを感じた。

 

 「血を・・・流しすぎたか・・・」

 「死んじゃダメー!」


 初めて味わう死の間際の感覚だが、不思議な事に悠斗に恐怖の感情は無かった。

 

 (ストックがあれば死ぬことは無いからな・・・)

 

 エルフの少女の悲痛な叫びが森にこだまする中、満足そうな顔をして悠斗は眠りについた。

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