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第10話 風の終着点


 窓の外からは、チュンチュンとハトに近い生物の鳴き声が聞こえてくる。

 転送されてからの2度目の朝、昨晩いつの間にか寝てしまったユートは、ソファの上で軋む体にムチを打ちながら立ち上がった。

 

 「・・・風呂入るか」


 脱衣所にてサベージウルフの爪によって負傷した左手の包帯を解くと、傷跡はあるものの、痛みは全く感じ無くなっている。

 更に言えば、ヴァニラの紋章付与魔法による体の倦怠感や、疲労感も綺麗さっぱりと消え失せていた。


 「・・・俺が異世界エフィラムに適応したってことか」

 

 ユートの推論はこうだった。

 ヴァニラに紋章を付与された際に、体内の構造を書き換えられた。人間からエフィラム人へと。

 エフィラムクロニクルにおいては、時間経過で微量ながら体力が回復するのだ。

 エフィラム人へと体の構造が変わったのであれば、一晩経って左腕の負傷や疲労感が解消されていたのも、理解出来る。


 脱衣所でひとしきり考えを巡らせたユートだったが、結局のところ真相は分からない。

 ユート脳内のハテナマークを消し飛ばすように、風呂場のドアを開けると、2日ぶりとなる熱いシャワーを浴び始めた。

 

 「すーすー」

 

 朝風呂を済ませたユートが部屋に戻ってもなお、ウィーダは寝ているようだった。


 「ウィーダ起きろ。朝だぞ」

 「あと5分だけー・・・」


 ユートは全く起きないウィーダを放っておいて、そそくさと出発の準備を始めた。


 ――――

 

 「なんで起こしてくれなかったのー!?」

 「いや、俺は起こしたぞ」

 

 宿屋を出る間際になったのでウィーダを叩き起したらこれだ。

 ウィーダは文句をぶつぶつを言いながら、髪を櫛で梳かしながら、部屋を後にした。


 「それではいってらっしゃいませ」

 宿屋のお姉さんにテンプレートの挨拶を貰ったユートたちは、ヴェンテ城下町を歩きながら、次の目的地について会話していた。

 「俺はミューエ王国領に向かおうと思う」

 「うん」

 「ウィーダ、お前も一緒にどうだ?」

 

 ウィーダの事情は不明だが、ヴェンテ王国領を出てミューエ王国領に向かう以上は、別れることになるかもしれない。

 ユートとしては転送されて以来、戦闘面でウィーダには助けて貰う事が多く、可能であれば共に旅をしたい。

 2日という短い期間ではあるが、少なからず情も湧いていた。

 

 「あたし・・・帰る家無いんだよねー!」

 「・・・そうか」

 「だからついてく!」


 ユートにとって、ウィーダの同行は嬉しい誤算であった。

 

――――


 ミューエ王国領を目指し、ヴェンテ城下町を出発してから数時間後。

 ユートたちはヴェンテ王国領とミューエ王国領の国境にたどり着いていた。


 「おいおい、エフィラムクロニクルではあんなの無かったぞ・・・」


 ユートたちの目の前では白銀の鎧に身を包んだ衛兵が、ミューエ王国領へと繋がる橋を厳重に警備していた。

 「うわぁ、あそこ通れるのか?」

 「うーん・・・無理かもねー」

 「通れるかどうか聞いてくる」

 

 ユートは警備している衛兵に話しかけた

 「ミューエ王国領に行きたいんだが」

 「ん?通行証を見せてもらおう」

 「通行証?あ、いや・・・ちょっと忘れちゃって」

 「であれば、通行は許可できない」

 「そこをなんとか無理か?」

 「これ以上業務を妨害するつもりであれば、引っ捕らえるぞ」

 ユートはあえなく撃沈した。


 「一応聞くんだが、アイツらって強いのか?」

 「ユート・・・もしかして無理やり通ろうと思ってるー?」

 「いや、そんなことはないけど」

 「“一応“言っておくけどね、ヴェンテの国境警備軍はとーっても強いよ!」

 「マジか・・・」


 ここに来て行き止まり。

 迂回できそうな道もあるだろうが、勿論そこにも警備の目は張られているだろう。

 それに、とーっても強い国境警備軍を敵に回した場合、自分たちの身に何が起こるかを考えると、ユートはその場を引き返す選択を取るしか無かった。


 「すんなりとたどり着かせてはくれないか・・・」

 「そうだユート!馬車の荷台に隠れて行くのはどうかなー?」

 「それこそバレた時に密入国者として、大変な目に遭いそうだな」

 ユートたちはミューエ王国領との国境から離れ、薄暗い森の中を歩いていた。

 

 「ユート!向こうに何かあるよ!」

 「何だあれ・・・?」

 目をこらすと、森の開けた場所にテントが複数立てられている様に見えた。


 「誰か居るかもな。用心しながら近づいてみるか」

 「りょーかい!」


 ユートたちは野営地らしき場所にたどり着いた。

 「こんな所で野営をする人がいるとは」

 「こういうところいっぱいあるよ! ヴェンテ城下町に住めるのは貴族だけだからねー」

 「そういうものか」

 

 エフィラムクロニクルでは存在しなかった設定だ。ヴェンテ王国領は随分な格差社会になっているらしい。


 「誰かいるか?」


 人を探すユートであったが、その声に返事を返す者はいないようだった。


 「誰もいないのか?」

 「でもあそこ、少し前まで人がいた形跡があるよ」


 ウィーダが指を差す方向には、焚き火の跡があった。

 「誰かいるか!こちらから危害を加えるつもりは無い!出てきてくれ!」


 ユートが集落に対して再度声をかけると、突如後方から何者かの気配を感じた。

 「誰だ!」

 「私の気配を察知出来たことは褒めてやる。しかし一手遅かったようだな」


 振り返るとそこには、ワンポイントの刺繍が施された白い服に身を包んだ人物が、赤髪を靡かせながらレイピアの剣先をこちらに向けていた。

 その顔は中性的で男にも女にも見える、不思議な雰囲気を纏っていた。

 「動くなよ。不審な行動をしたら、直ぐにストックを奪う」

 

 「ユート!」

 「そこのエルフの娘!お前も騒ぐな」


 「お前、何者だ」

 ユートはレイピアを突きつけられながらも、毅然たる態度で、目の前の人物に話しかける。


 「罪を犯したものに名乗る名前など無い」

 「待ってくれ、誤解だ!」

 「誤解だと?それならば私の同胞たちは何処に行ったと言うんだ」

 「知らない!俺たちが村に来た時には誰もいなかったんだ」

 「・・・詳しく話を聞かせてもらおうか」


 「武器を全て地面に捨てろ」

 「俺、武器持ってないんだ」

 「あたしもー」


 赤髪の男は困惑しているようだった。

 「武器を持たずにこの集落まで来たのか?」

 「そうだ」

 「まぁいい、次はステータスを展開しろ」


 ユートとウィーダは言われるがままに紋章を触り、ステータスを展開した。


 ――――――――

 Name:ユート

 レベル:2

 体力:F-

 筋力:F-

 魔力:F-

 敏捷:F-

 知能:EX

 ストック:1

 ――――――――


  ――――――――

 Name:ウィーダ

 レベル:20

 体力:E

 筋力:F

 魔力:C

 敏捷:D

 知能:E

 ストック:3

 習得スキル

 ・ ウォーター・ボール

 ・ ウィンド・カッター

 ・ ウィンド・サイクロン

 ――――――――

 

 「お前、ステータス低すぎるだろ」

 「うるせえ」

 「その年齢で残りストック1とはな・・・お前今までどんな悪事を働いてきたんだ?」

 「俺は生まれた時からストック1だ。悪事なんて何もやってない」

 「どうだかな」


 赤髪の人物はそれぞれのステータスを確認し終えると、レイピアを懐に収め、軛を返した。

 「俺たちはもういいのか?」

 「お前たちのステータスでは、大それたことは出来ないだろうからな。私は同胞の痕跡が無いか調査する」


 完全にナメられていると感じたユートは、赤髪の男に対して、こう言い放った。

 「お前、さっき俺のステータスを見て気づかなかったのか?」

 「何?」

 「俺の知能のステータスがEXだってことだ」

 「・・・それがどうした」


 「単刀直入に言ってやる。俺の知能があればこの集落から消えた人の行方を突き止めることができる」

 「・・・ほう」

 「そこで俺と取引をしよう」

 「言ってみろ」

 「この集落から人が消えた理由を突き止める。それが終わったら、俺たちの目的に協力してくれないか?」

 「・・・協力とは?」


 こいつチョロいな・・・ユートは内心思ったが、顔には出さずに交渉を続けていく。


 「俺たちをミューエ王国領まで運んでくれ」

 「・・・・・・」

 赤髪の人物は黙っている。


 「その服に刺繍されているエンブレム、それはミューエ王国騎士団の物だろ?」

 「・・・よく頭が回る、知識EXというのは本当のようだな」


 ユートは最初にレイピアを突きつけられた時点で、その服装からこの人物がミューエ王国騎士団の関係者であると見破っていたのだ。


 「お前、ミューエ王国領で何をするつもりだ。返答次第ではその提案は飲めない」

 「ミューエ王国領、ミックリバーの冒険者ギルドに用がある」


 赤髪の人物は黙って、考え込んでしまった。

 「・・・信用した訳では無いぞ」

 「交渉成立だな」


 「あんた、名前は?」

 「ミューエ王国騎士団所属、アリスティア・ルーゼンベルク」

 「俺はユート」

 「私、ウィーダ!」


 それぞれが自己紹介を終えるとアリスティアが口火を切った。

 

 「数時間前まではこの野営地に私の仲間が居たはずだ。彼らが何処に消えたのか教えてもらおうか」

 「そう急ぐな、まずは現場検証だ。この野営地で何が起きたのか突き止める」

 

 ユートはそう言うと、野営地に向かって歩き始めた。

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