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ボクは忠実なるキミの僕【読み切り版】


 ボクは涼香すずかを待っていた。


 そろそろ帰る時間のはずだ。


 朝、涼香が出かける前の天気予報では、アナウンサーの女の人が、夕立に気を付けてと言っていた。

 

 大人しく玄関の前で待機する。


 しばらくして、扉の鍵が回って涼香が帰って来た。外は強い風と雨。雷もどこか遠くで鳴っている。涼香は力を込めて扉を閉めると、ようやく平穏な世界が訪れた。


「……もぉーずぶ濡れ。最悪ぅ。……わ、待っててくれたの~? もう可愛いんだから!」


 涼香はボクのことをぎゅっと抱きしめる。


 びしょ濡れの制服のせいで、ボクも濡れるがあまり気にしない。


 なぜなら、時折やってくれる涼香のこの行為が好きだからだ。


 毎日やって欲しいと思っているのだが、そうはいかない。逆に毎日やってくれるものではないからこその愛おしさがあるのかもしれない。


 そんなことを思っていると、涼香はおもむろに制服を脱ぎだした。


「よい、しょっ!」


 スカートをその場に落とし、続けてワイシャツも脱ぐ。脱ぎ捨てたワイシャツがボクの頭に乗り、目の前が真っ暗になる。


「わっ、ごめんごめん」

 

 そう言って涼香がワイシャツを取ると、ボクの視界が明るくなった。すると涼香は、紫色の上下お揃いの下着姿になっていた。


 こんな格好になるのなら、せめてタオルでも持ってきてあげるべきだったと後悔する。だが、ボクの身長ではタオルの入っている棚には届かないの。致し方が無い。


 涼香は女子高生には早熟した豊満な肉体を恥じることなく廊下を進んで行く。ボクがいるのだから、少しは遠慮をして欲しいものだ。


 涼香は脱衣所に入ると——。


「さすがに、入っちゃダメよ?」


 ボクの頭をポンポンと撫でて、扉を閉めた。


 さすがのボクもここは大人しくして、壁に寄りかかることにした。


『おっとっと……よいしょ』


 という謎の声。浴室の扉を開ける音。しばらくして、シャワーの音が聞こえて来た。


 時折気持ちよさそうに『ん~』とか『ふわ~』という声が扉越しに漏れていた。


 正直、涼香と一緒にボクも入りたい。数週間に1度、涼香が身体を洗ってくれるのだが、その時の涼香はお風呂に入るような恰好ではなく、ちゃんと下着を穿いている。ボクのことを洗い終えると、ボクの身体を拭いて涼香が満足して終わりだ。


 ちょっと悲しい。


「あ~、気持ちよかった~」


 身体から湯気を上らせて出て来た涼香は、髪も身体もろくに拭いていなかった。タオルは肩にかけているので軽くは拭いたようだが、脱衣所に入る前と大して変わり様の無い濡れ具合だった。


 リビングに行くと、涼香は真っ先にテレビのリモコンを持って電源を入れた。

 

『今日は隅田川の花火大会に来ております! 見てくださいこの人の数!』


 どこかの花火大会の映像だった。


『まもなく、花火が打ち上がります!』


 アナウンサーの言葉と共に、カメラが切り替わる。


 やがて、中央に1つの細い光が上空に打ちあがった。


「東京の花火は一味違うなぁ」


 涼香はチャンネルを変えてクイズ番組を視聴し始めた。


 そして、涼香はボクのことを抱き寄せる。


 やっぱり涼香の身体は濡れていたけれど、彼女の体温を直に感じられて心が躍った。


「……これからも一緒にいてね」


 涼香は視線をテレビではないどこか遠くに向けて、寂しそうな笑顔を作った。


 来年の夏、涼香は東京へ行くらしい。どんな場所かはよく分からないが、ボクは一緒に行けないことだけは知っていた。


 それを涼香も分かっている。


 本当は涼香もボクと一緒に東京に行きたいはずだ。でも、悲しい顔をする涼香なんて見たくない。


 笑顔で旅立って欲しい。


 せめて旅立つその日まで、輝かしい笑顔をボクに向けて欲しい。


 だからボクは、涼香が元気になって欲しい一心で、大きくて元気な返事をした。














「―—わん!」






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