人間風に言うと、食べたいくらいに愛してる
異種族恋愛ものです。
それでも良い方、どうぞ↓
執着愛★★★☆☆
ココは、いつでも桜の花が咲いている。
外の世界はいくつも季節が巡っていると言うのに。
この場所だけは、時が止まっているかのように変わらない。
大きな桜の木の傍に佇む学生服を着た人間の女。
ココに居る人間はたった一人。
「八重。」
呼べばゆっくりと振り返る。
さらりと黒い髪が揺れ、女子高生らしく薄く施された化粧。
そんなものしなくても、八重は誰よりも可愛く美しいのに。
「陽太。おかえりなさい、帰ってたの?」
「まぁな。」
鬼の番として、八重の義妹が愛されている。
アレは、八重が中学の時だったと思う。
鬼という最高の妖に愛されているという事実が義妹を付け上がらせたのだろう。
いや、それに拍車をかけたのはあの義母か。
実父は八重を気にかけていたからな。
八重は幼少の頃から俺の番として、その身体に紋様が刻まれてると言うのに。
「どうした?」
「ん?紋様が消えてないかなって。不安になって。」
そう言いながら、スカートの裾を掴んで少しあげるから。
その手を止める。
「出会った時につけた番の印はそう簡単には消えない。消えるのは、妖側の愛情が無くなるか妖力が尽きた時だと言っただろう?」
番の紋章は好きなところにつけることができる。
出会った頃の八重はまだ幼く、五歳だと自己紹介してくれた。
あの時もただただ、可愛かった。
今でも充分可愛いが、あの頃とはまた違う。
そして、可愛い俺の番は無邪気に微笑んで。
「だって、自分じゃ見えないんだもん……。」
「ちゃんとある。俺からの愛情が尽きるわけ無いだろう?」
公園で一人、砂遊びをしているところに出会った。
離れたところに母親と思しき人物が居たのも覚えている。
──俺は、陽太。おまえの名前は?
──やえ!
──…年は?
──ごさい!
──七歳差か……。俺の所有物だと印を付けたい。どこにつけてほしい?希望はあるか?
──しるし?いたい?
──痛くはない。
──めだつ?
──あぁ
──じゃあー、ココ!ココにつけて!
そう言ってワンピースの裾をめくり、太ももを指さした。
大胆なその行動に目をパチパチと思わず目を瞬き、彼女を見返した。
──本当に、そこで良いのか?
──うん!ココがいい!
──スカートを履いたりした時に見えるのではないのか?目立つぞ?すごく。
そういう俺を不思議そうな顔をして、キョトンと小首をかしげて見てくる八重はただただ反則級に可愛くて。
──やえは、ひなたのものなんでしょ?ココだったら、お父さんとお母さんと、やえと、ひなたしか見ないよ?
コレが子供の破壊力か、と。
コレが番の破壊力か、と。
せめて同じくらいの年の番相手なら、齧るくらいはしていたと言うのに。
俺の悶々とした気持ちを知ってか知らずか、八重は無邪気に笑い、その紋様を母親に見せていた。
もちろんその後にちゃんと、八重の両親には番として挨拶はしたが。
「陽太?」
「!」
「ボーッとしてどうしたの?」
「八重と出会った頃を思い出していた。」
「私と?」
「八重が俺に太ももに印を付けてとお願いしてきた時のことだ。」
「あ、アレは……!本当に、深い意味はなくて……!!」
真っ赤になって顔を隠す八重に口角が上がる。
こういうところは、昔から変わらない。
俺が出会い、心惹かれた八重のまま。
番という繋がりがなくても、俺は八重に惹かれていただろう。
本当に可愛い。
「早く、ココにずっと居られるようになれば良いのに。」
「ダメだよ。私、ちゃんと学校行くって約束したもの。それに、義妹も鬼も別の学校だから大丈夫。」
「あぁ、わかってる。それでも、心配なんだ。わかってくれ。」
俺の番だと知らずにアイツらは八重を傷つけた。
俺が約束を守って、八重が二十歳になるまではと接触をしなかったが為に。
「高校を卒業したら、結婚式をあげるぞ。」
「気が早いよ。」
「これでも耐えてる。」
本当なら今すぐにでもその服を剥いて、食べてしまいたいというのに。
身体の隅々まで、俺という存在を刻みつけたいというのに。
白い肌も、俺を呼ぶその喉笛も。
全部、全部
誰にも触れられないところまで。
「なぁ、八重。大人になってくれ。」
その穢れを知らない身体に、刻みつけたい。
「高校生だから充分大人だと思うけど。」
「俺たちからすればまだまだ子供だ。」
子供だと言い聞かせ、己を戒める。
七歳も年下の女の子。
俺の番。
風が吹き、八重のスカートがふわりと浮く。
太ももにつけてと言われたから、その裏につけた。
八重地震にも見えないその場所は、八重が知らなくても誰かの視界には入る。
見るたければ見るが良い。
ただし、触れるのは許さない。
俺の八重だ。
俺だけの八重だから。
「八重は可愛いな。」
「な、何、いきなり。」
「可愛くてキレイだ。」
キレイなまま、大人になってくれた。
傷ついて、傷ついて、
それでもキレイなまま。
擦れることなく、純粋無垢なまま。
「八重。」
抱きしめれば、安心しきったようにすり寄ってくる。
ただそれだけの行為に胸が締め付けられ、ドロドロとした感情が湧き上がる。
壊したい、穢したい、汚したい。
ドロドロに甘やかして、おまえには俺だけだと身体に刻みつけたい。
コレが妖ゆえの感情なのか、番を前にするオスの本能なのか。
「陽太。」
「なんだ。」
「大好き。」
どろり、どろりと仄暗い何かが身体から湧き出る。
あぁ、困った。
まだ、八重には手を出せないと言うのに。
八重が成人するまではダメだと約束してるのに。
今すぐにでも、美味しく剥いて食べてしまいたい。
骨の髄まで、残さずに。
「…………八重。」
「私の番が陽太で嬉しいよ。この大空を散歩するなんて贅沢、烏天狗の特権でしょう?」
いたずらっ子のようにニコリと微笑む。
その頬に手を添え、優しく撫でる。
そうすれば、手のひらにすり寄ってくる。
あぁ、ダメだって本当に。
ドロドロとしたこの感情が、溢れて止まらなくなるから。
俺はまだ、八重を壊したくないんだ。
本能のままに、蹂躙するわけにはいかないんだ。
ココまで耐えて来たんだ、あと少し待てる。
「ねー、陽太。」
「なんだ。」
「キスして?」
あぁ、ほら、まただ。
君はまた、知らずに俺を惑わせる。
これ以上どうしたいんだ、俺を。
「…………。」
ドロドロとした感情を抑え込み、その額に口づけを送る。
そうすれば、不満そうな顔をして見上げてくる。
その表情ですら、俺を刺激する。
「もう!唇にしてほしいの!皆普通にしてるんだから!」
「ダメだ。」
「なんで!!」
「絶えられる気がしない。」
「耐える?何を。」
首を傾げる姿に苦笑する。
穢されていない君を汚す背徳感。
番ゆえの執着心と呼ぶべきなのか、
ただの本能と言うべきか。
「俺は、本当に君が好きなんだよ、八重。」
身体の隅々まで支配したい。
ドロドロに甘やかせて、俺しか居ないと刻みつけたい。
この人間の世界から妖の世界に連れて行き、
大切に……
大切に囲っておきたい。
だけど、君はソレを嫌がるだろう?
だから。
「好きって、どのくらい?番だから好き?」
「どのくらい、か……。正直、どう表せば良いのかわからないんだが…………。」
堕ちて、
堕ちて、
堕ちて。
俺のこの腕の中で、笑って生きていてほしい。
この翼に宿る毒で、隅々まで支配してしまいたい。
身動きのとれない屍になったとしても、愛し尽くすと約束する。
ドロドロのぐちゃぐちゃにして、
壊して、
壊して、
壊して。
完全に壊れるまで。
その瞳が俺以外を映さなくなるまで。
その身体が俺以外を受け付けなくなるまで。
「控えめに言って……食べてしまいたいくらいには、愛してる。」
「じゃあ、食べられる前に私が陽太を食べてあげるね。」
「楽しみにしてる。」
その時に、俺を呼ぶ声があるのなら。
その時に、俺を喰べるだけの気力があるなら。
喜んで食べられてやるよ。
だが、悪いな。
おまえが俺を喰ったなら、今度は俺が内側からお前を喰うから。
その時は……、
ちゃんと、
俺の名前を呼べよ?
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝