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思わぬ展開

 そのことを俺が知ったのは、たぶんこの屋敷で一番最後だった思う。

「おばあさまがくる?」

最初にそう言われたときには、お母さまのお母さまのことかと思った。今までお祖父さましか来たことなかったし。でも残念ながら母方の祖母は既に亡いらしい。父1人娘1人で育った、とお母さまは言った。そうだったんだ……というか、ということは、

「ちちかたのおばあさまがくるの?」

ということではないか。


 兄さんに手紙で伝えれば、当然兄さんを育ててくれているお祖母さまに伝えてくれるとは思ってたけど、お祖母さまがこちらに直接働きかけてくるとは、思ってなかった。意外に思っていると、

「実は、我が家とご実家がつきあいがあるのだ」

お祖父さまが教えてくれた。

「そうなの?」

「ああ。我が家とでは位に差はあるが、我が家は魔道具ではこれでも少しは知られた家だ。魔法師として代々ご高名なアッヘンバッハ侯爵家とはお付き合いがある」

へえ、そういうつながりがあるんだ。前世の小説では出てこなかった話だ。


「それで、私のほうへトルデリーゼ様からご連絡いただいた」

そして、我が家に訪ねてくることになったらしい。

「あなたにもお会いになりたいそうよ」

まあ、俺も孫にあたるからなぁ。……そんな風に呑気に思っていたこともありました。いよいよお祖母さまが来るという日、朝起きると、屋敷の中が何だか慌ただしかった。

「どうしたの?」

我が家の侍女、ブリギッタが起こしに来てくれたから、聞いてみる。すると、

「アンゼルム様のお祖母さまをお迎えする準備ですよ!」

何を当たり前のことを、と言わんばかりに答えられた。そんなに大事なの?前世の3兄弟で暮らしていた家は、兄さんが片づけるそばから散らかす俺たち弟2人のせいでいつもそこそこ散らかっていたけど、この屋敷はもちろん違う。有能な執事のベンノの指示のもと、いつも綺麗に維持されている。


 なのに、朝から上から下まで大掃除をしているらしい。別にお祖母さまが家中を監査して回るわけもなし、上から下まで掃除する必要はないんじゃないかな、と思ったけど、ベンノを筆頭にみんな真剣な様子だったから、口にするのは止めておいた。公爵夫人の訪問というのは、どうやら俺の祖母であっても大変なことみたい。俺は部屋で邪魔をしないように大人しくしていようと決めて、ブリギッタにも1人で大人しくしているから、準備を手伝いに行ってあげてと言った。けど、それで終わらなかったのだ。

「さあ、準備よ!」

ブリギッタと入れ替わりで、ただならぬ気配を漂わせるお母さまが部屋に登場したのだ。

「え?じゅんび?」

お母さまの気合の入った様子に内心おののきながら聞き返すと、

「お着替えよ!」

お母さまは、ばっと俺の前に何かを差し出して見せた。


「これは……おようふく?」

しかもひらひらがいっぱいの。とっても着心地の悪そうな。

「そうよ!これに着替えましょう!」

お母さまは何だかとっても楽しそうだ。

「せっかく作ったのに、着させる機会がなくて残念だったのよね」

……まあ確かに。この世界では、保育園や幼稚園みたいなものはないようだから、幼児が着飾る行事の機会はない。七五三みたいなお祝い事もないのかな?なんて現実逃避している間に、みるみるうちにお母さまに着替えさせられていく。

「うー」

腕が上がりにくい。トントン!と足踏みをしてみても足が上がらない。

「素敵!」

しかし、お母さまのテンションは上がっている。……俺のテンションは下がっている。

「これでお祖母さまにお会いする準備は万全よ!」

そう嬉しそうに言うお母さまに、ネガティブなことなど言えるはずもなく。俺は大人しくその恰好のまま、お祖母さまを迎えるという、今まで入ってこともなかった客間に連れていかれたのだった。


 初めて入った客間で対面したその人は年齢不詳だった。

「そなたの祖母だ」

端的に自己紹介されたので、

「まごのあんぜるむです。よろしくおねがいします!」

俺も自己紹介をして、ぺこりと頭を下げた。すると、お祖母さまが身を引いて、その人が見えた。

「にいさん!」

もしかしたら一緒に来るかもしれないと内心期待していた兄さんがそこにいた。

「元気そうだな」

頭のてっぺんからつま先まで俺をじっくりと見て、兄さんはほっとしたように笑った。


 手紙では大切にされていることを伝えてたけど、自分の目で確認したかったんだろう。前世からの兄弟だと2人とも周りに伝えていたから、見守る大人達もどこか微笑まし気だ。

「良かったな、ヴィルマー」

お祖母さまも兄さんに微笑み、

「はい」

兄さんも嬉し気に頷き返している。俺は初めて会うお祖母さまは一見ぶっきらぼうだけど、優しい目をして兄さんと俺を見てくれている。優しい人なのかな。兄さんも大事にしてくれているみたいだし。兄さんに微笑んだお祖母さまは、それから、視線をお母さまとお祖父さまに移して、

「うちの愚息が申し訳ない」

と頭を下げたので、俺はびっくりしてしまった。


 びっくりしたのは俺だけじゃない。頭を下げられたお母さまもお祖父さまもびっくりしている。

「謝られるようなことはありませんわ」

慌てて首を振ったお母さまに、お祖母さまは、

「しかし……」

言い募ろうとしたけど、お祖父さまが静かに口をはさんだ。

「我が娘との関係は互いの問題かと存じます」

「……そうか」

「ええ」

お母さまも、頷いている。


「とにかく、あいつがいまやろうとしてることはとめなきゃ!」

俺は、話を本題のほうへと変えてしまえと、あえて大人たちの会話に口をはさんだ。すると、

「そうだな。今大切なのはそのことだ」

お祖母さまがふっと笑って言った。俺が、そんなお祖母さまのことを、何かかっこいい、と思っていると、

「そのために、提案をしようと思って今日は来たのだ」

お祖母さまは続けた。すでに何かお考えがあって、今日来てくれたらしい。対応が早いなあと感心していた俺だったけど。お祖母さまの提案は、我が家に激震を走らせたのだった。

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