一安心、と思ったけど
お母さまの決意とは、実家の領地に引きこもって、父親との接触を断つことだった。王都から遠い隣国との境にあるその領地に、俺と一緒に暮らして魔道具を開発していこうと思う。そうお母さまは言った。
「お父様との仲が改善されてなければ、思いもつかなかったことだから、これもあなたのおかげね」
とお母さまは言ったけど、お祖父さまは、俺の働きかけに関係なく、お母さまのことをずっと心配していたはずだ。だから、俺が働きかけたとき、あんなに素早く反応したのだと思う。
「でも逃げるだけじゃだめね」
俺に決意を告げた後、お母さまはぽつりとつぶやいた。確かに、お母さまの手助けが得られなかったからといって、あの父親が、正妻を害することを諦めるとは思えない。その可能性を知りながら、みすみす見過ごしていいのか。お母さまはそう考えたみたい。それを聞いて、本当にあの小説の中のお母さまとは別の道を選び取っているのだと実感できて俺は嬉しかった。そして、そういうことなら、
「おれがおやくにたてるとおもうよ!」
勢い込んで言った俺にお母さまは、不思議そうに首をかしげる。
「どうやって?」
「さっきぜんせのおはなししたでしょ?ぜんせで、おれ3にんきょうだいだったんだ」
「そうなのね」
いきなり前世の兄弟の話をした俺に、話の行き先がわからないんだろう、まだ不思議そうな表情だけど、お母さまは相槌を打ってくれる。
「それでね、このせかいでも3にんきょうだいでてんせいしたんだ!」
俺は、自信満々に言い切ったけど、
「……そうかしら?」
お母さまは苦笑いだ。でも、そんな反応も想定内だ。だって、兄さんとお祖母さまも兄弟で転生した件については、こんな感じだったって聞いてるし。だから、準備だってしている。
「これみて」
俺は、準備してきたものをお母さまに向かって差し出す。
「これは……?」
お母さまは、また首をかしげるけど、それも当然だ。
「にいさんとのてがみだよ。ぜんせのことばでかいてるんだ」
俺が手紙を見せながら一生懸命に説得していると、やがて、
「……わかったわ」
お母さまは笑って頷いた。
「あなたの言うことを信じたほうが、早そうね」
「そうだよ!」
ちょっと生意気に俺が答えても、お母さまは面白そうに笑っていた。
それから、ふっと笑いを治めて、
「クラルヴァイン公爵夫人が引き取られたと噂の、あなたのお兄様に当たる方のことね」
お母さまは言った。
「……うん」
そう、その点はちょっと気まずいと思ってたんだ。お母さまからすれば愛する人が他の女性との間になした子の話だから。でもお母さまは、
「大丈夫よ、もう気にしていないから」
また笑う。……良かった。
「その方を通してクラルヴァイン公爵夫人に伝えようと考えているのね」
「うん、そう」
お母さまは、すぐに俺の考えをわかってくれた。
「そうね。クラルヴァイン公爵夫人は今は別に暮らされているけれど、れっきとした現公爵夫人だし、ご実家もご自身も力をお持ちだから、きっと何とかしてくださるわね」
納得したお母さまは、俺の考えに賛成してくれた。
良かった。思った以上にスムーズにお母さまとの話が進んで俺はほっとした。……俺たち兄弟が、グリフォンのぴいちゃんにお願いして手紙のやり取りをしていると説明したときには、お母さまはまた驚いてたけどね。でも、そんな風に知らない間に手紙のやり取りをしていたのかと納得もしてた。お母さまにも賛成してもらって、早速兄さんに手紙を書いて、タイミングよく次の日に来てくれたぴいちゃんに託して一安心俺だったけど。その手紙は思いもよらぬ事態を招いたのだった。
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