確かに変わるもの
前世も含めて一生で一番緊張した打ち明け話に対するお母さまの最初の答えは、
「まあ、やっと!」
だった。どうやら俺が前世の記憶を持つことは、周りの大人たちには察しがついていたみたい。確かに中身が幼児だけとは思えない言動だったかもしれない。それに俺の言動から他の世界の知識の気配を感じていたらしい。縮小コピーとか、完全に前世のコンビニのコピー機が思い浮かんでたしなぁ。
とはいえ、そんなお母さまも、最初は前世の小説のことは半信半疑だった。ただ、それも俺があの男がお母さまに命じてきたことを言い当てたことで変わった。
「まもりのまどうぐのにせものつくれっていわれたんでしょ」
「なっ……」
絶句したお母さまの表情で、俺が言い当てたことはすぐにわかった。
あの人でなしは、お母さまに正妻の持っている防御の魔道具の偽物を作らせて、効果のないそれと本物をすり替えることで隙を作り、妊娠した正妻の命を狙うのだ。出産は命懸けだ。だから、少しずつ毒を盛ることで体力を衰えさせて胎児ごとこの世を去らせようと企む。小説の中ではお母さまは、悩みに悩んだ末、別れることを匂わされて、そして、正妻から子が生まれたら俺が跡取りにはなれないぞと脅されて、最終的には引き受けてしまう。でも、この世界でのお母さまは違った。
「もちろん、断ったのよ」
でもあの人でなしは聞く耳を持たなかったらしく、最後まで一方的に押し付けてきたらしい。
「あの様子じゃ、私が止めても聞いてくれないと思って……」
次の日の朝から悩みがちだったのは、何とかして止めなければと考えていたからだった。
良かった。前世の記憶に引きずられて、お母さまのことを信じたいけど信じきれない気持ちでいたから、心底ほっとしてしまった。その気持ちを、
「ほっとした?」
お母さまに指摘されてしまった。
「だって……」
思わず口ごもったけど、お母さまは、
「いいのよ」
と言って笑った。
「もしかしたら、私も選んではいけない道を選んでしまったかもしれないわ」
「え?」
「あなたがいてくれたから。魔道具への気持ちを取り戻させてくれたから」
だから、道を誤ることがなかったとお母さまは言う。
「おかあさま……」
「あの人との関係に囚われていたころの私だったら、惑わされてしまったかもしれない」
お母さまは苦く笑った。
「でも、おかあさまはそんなことにならなかったよ!」
俺は思わず強く否定した。
「ありがとう。……あなたのおかげね」
魔道具への情熱を取り戻してくれた俺のおかげで、1つの関係に囚われなくなったとお母さまは言う。
そして、お母さまは、
「決めたわ」
強い決意の籠った声で言った。
「おかあさま?」
見上げた俺に、お母さまが告げた決意は、俺にも大いに関係のあることだった。
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