しゅくしょうこぴー!
魔法陣と魔道具の勉強は順調だ。
「うーん……」
でも、でかいんだよな。と思う。魔法陣を写すことで機能する魔道具は、どうしても人が書く魔法陣のサイズになるからでかい。灯りをつけるとか機能がシンプルな魔法陣は、ある程度小さくできるものの、限界がある。前世では米粒に写経できる人がいるとニュースでみた記憶があるけど、自分ができる気はしないし、この世界で、それほど小さく魔法陣を書ける人はいない。
この大きさでは、俺が目指すものを実現することは難しい。
「うーん……」
「何をそんなに悩んでいるの?」
うんうんと悩んでいたら、お母さまに頭を撫でながら聞かれた。
「ちいさくできないのかなって」
脳内で考えていることを口で表現するのが追い付かない俺の、つたない言葉に、
「ちいさく?」
お母さまはいったんは首をかしげたけど、すぐにああ、と頷いた。
「魔道具を小さく作りたいと言うのは、長年の魔道具士の願いなのよねえ」
ため息をつきながら、お母さまが教えてくれる。
どうやら、みんな願うことは同じらしい。そうだよな。防御の魔道具とか小さいものを大切な人に身に着けてほしい、って誰でも願うよな。
「魔法陣を小さく写し取れるといいんだけどね」
「うん。……うん?」
小さく写し取るというお母さまの言葉から、思い浮かんだ言葉が、
「しゅくしょーこぴー!」
つい口をついて出た。
「しゅくしょ……?なんですって?」
いけない、いけない。前世の知識がぽろっと口から出てしまった。
「ん-ん」
何でもない、とお母さまに首を振ってみせて、それ以上突っ込まれる前にと、昨日初めて自分で書いた防御の魔法陣を取り出した。初歩の初歩の防御の魔法陣なので、防げる攻撃は大したことないけど、とりあえずそれを昨日お祖父さまにもらった人形に写して、今思いついたことを試してみることにする。この世界の魔法に大切なのはイメージ……イメージを強くもつこと……小説の中で主人公が言われていたことを思い出しつつ、前世でコンビニで大学のノートを縮小コピーしてまとめたとき(自分のを友人にコピーしてあげたときだ、逆じゃない!)のことを同時に思い浮かべる。
「しゅくしょーこぴー!」
口に出したほうがイメージが明確になるから、ついまた口に出してしまったけど、そのおかげで。
「まあ!」
「できた!」
人形のお腹に元のサイズより小さい魔法陣が写された。とりあえずは7割くらいの大きさかな?読むことができるくらいの縮小率をイメージしてたからかな。ふむふむと成果を検証していると、お母さまもすぐ隣に来て、まじまじと見始めた。
「魔法で魔法陣を小さくするのね」
「そう!これで、いろいろちいさくできるよね?」
この発想をもってすれば、色々な魔法陣を小さく転写することができるのでは?と思った俺は、張り切って聞いたが、
「それは、そんなに簡単なことじゃないかもしれないわ」
お母さまは難しい顔で考え込んでしまった。
「なんで?」
「この魔法は、多くの魔道具士には難しいと思うわ」
難しい表情のままでお母さまは答えた。
「どうして?」
なぜなぜ期の子供の気分になりながら、俺はお母さまに質問を繰り出した。実際なぜなぜ期の子供だし。
「魔道具士は、魔力量が多くない人が多いのよ。でも、今アンゼルムが使った魔法は、普通に魔法陣を写し取るものより魔力量がたくさん必要ね」
「そうなの?」
と首をかしげたが、そういえば、前に普通に転写したときと違って、何だか吸い取られるような感覚があった。そうか、あれは魔力量がたくさん必要だったからなのか。ふむふむと納得していると、
「あなたも感じたでしょう?」
お母さまに聞かれて
「うん」
頷いた。
「魔道具士は、魔力が少ないことが多いせいもあって、魔法陣の開発に注視しがちだけど……」
お母さまは、また俺の魔道具に写された魔法陣をじっと見ながら考えている。
「魔法の研究も……」
考えてこんでしまったお母さまの横顔は、すっかり研究者と言った感じだった。しばらく考え込んだ後、俺のほうを向いたお母さまは、
「アンゼルムは早く魔法の勉強もするべきみたいね」
そう微笑んだけど、その表情はなぜか少し寂し気だった。
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