そして、行動開始を開始する
あずきの協力のもと、前世を思い出した俺は、幼児の現状把握能力で見ていた記憶に加えて、数日間家の中の状況を観察し、まずは、
「べんの」
手始めにベンノにアプローチすることにした。
「これは、アンゼルム様。どうされました」
ベンノは、膝をついて俺と視線を合わせてくれる。
「べんのは、おじいさまのところからきてるの?」
これが観察に前世の知識を加味して、俺が得た結論だ。
前世で読んだ小説の中での俺の母は、男爵だけど、代々魔道具開発に優れた家として、羽振りのいい家の一人娘だ。本来は家を継ぐはずで、実際幼い頃からそのための勉強をして、将来を期待される存在だったらしい。それが、俺の父親と会って道を誤ってしまった。家が決めた婚約者との結婚を止めない男の愛人になってしまって、俺を産んだのだ。表向き実家とは縁を切ってることになってるけど、使用人を見ていれば母の実家からついてきた人達ばかりなことに気が付く。呼び方だってお嬢様のままだ。それに公爵家の一人息子とはいえ中々当主の地位を譲ってもらえない父親に、これほどの生活をさせることができる甲斐性があるとは思えない。
「これはこれは……」
なんと答えたらいいのか珍しく迷って言葉を探しているベンノを見上げて、
「だったらおじいさまにおあいしたいの」
見上げて懇願する。そして、畳みかける。
「おねがいがあるの」
「お願い、でございますか」
「まどうぐのおべんきょうしたいの」
俺がそう言うと、
「魔道具の」
ふっとベンノの表情が引き締まったかと思うと、ベンノは、
「そうですか」
ふっと微笑んで、
「それではご連絡をお取りしましょう」
と言ってくれた。
そこからはスムーズだった。なんと翌日にはお祖父さま自ら我が家にいらしたのだ。
「おじいさま!」
突然の実父の訪問に驚くお母様が、何か言い出す前に俺は、とたとたーっと初めて会うお祖父さまに駆け寄って抱き着いた。
「おう、大きくなったのう」
お祖父さまも躊躇いなく俺を抱き上げてくれる。
「あったことあるの?」
俺は覚えてないけど、会ったことがあるのかな?首をかしげると、
「おお、こーんな小さな頃にな!」
と指を小さく開いてみせる。
「そんなにちいさかったことないよ!」
お約束のツッコミを入れると、
「おお、賢い子だなぁ」
お祖父さまはカラカラと笑いながら言った。
「魔道具について学びたいのか?」
お祖父さまが聞くと、
「な!」
後ろでお母さまから反論したそうな気配を感じたけど、
「そうなの!おしえてくれる?」
さっさと答えてしまう。あの父親が、俺には公爵家を継がせるからそのための教育をする、その手配を待っていてくれなんて言ったことは知ってるけど(前世の小説で読んだから)、そんな必要はない。俺が学びたいのは魔道具だ!
「もちろんだとも」
お祖父さまが大きく頷いて、
「それでは早速準備をいたしましょう」
お祖父さまについてきていた執事がすかさず続ける。
「おお、そうだな。まずは我が家に来るといい。必要な物を揃えてやろう」
「うん!……いってくるね、おかあさま」
ここまであえて無視してきたお母さまに、ばいばい、と手を振る。
「え、ええ」
俺とお祖父さまの勢いに押されたのか、お母さまはとっさに頷いている。
と思ったら、お母さまは、
「……帰ってくるわね?」
心配そうに意外なことを聞いた。
「うん!」
どうしてそんなことを聞くの?と言わんばかりにあっさりと頷いてみせると、
「そう」
お母様はほっとしたように息をついて、
「いってらっしゃい」
俺に言った。
実は、場合によっては、お祖父さまがいいと言ってくれたら、いずれはお祖父さまとお祖母さまの住むお母様の実家に住むのもありかなとは思っている。お母さまが嫌がるなら、1人ででも。でも、さすがに今日じゃない。今日のところは、お祖父さまに魔道具開発の勉強のための道を開いてもらうのが目的だ。今後物語を変えて兄弟を守るために絶対に必要になるのだから。
「今日は、美味しいものも食わせてやろう」
「やったー!」
孫を腕に抱いてご機嫌なお祖父さまの腕の中で、まずは1つ目の目的を達成した俺もご機嫌で歓声を上げた。
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