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大人の仕事

 3兄弟再結集の日から、事態はますます俺の予想を超える方向に進んだ。何と、兄さんと俺は、今クラルヴァイン公爵家の本邸で暮らしている。兄さんも俺も、自分の立ち位置で本邸に暮らすべきではないと思っていたし、俺のお母さまもそれは遠慮するようにと言ってた。でも、最終的にはアンネマリー様の熱意と、エルヴィンの末っ子力の勝利だと思う。クラルヴァイン公爵家のお祖母さまとお祖父さまも乗り気だったし、結局は、3兄弟そろって、クラルヴァイン公爵家の本邸で暮らすことになった。

 

 そして、そのことが、思いもよらぬ効果をもたらした。元々お祖母さまが本邸に戻ったことで、当主夫妻が孫の養育に関わるらしいと推測され、お祖父さまは、息子を飛び越えて、孫に当主の座を譲るのではないかと噂されていたところへ、孫たちが3人とも本邸で暮らし始めた。お祖父さまが、父親を飛び越して当主の座を譲るという噂の信ぴょう性がいや増し、ますますかしましく噂されるようになったらしい。そのことで、父親は、追い込まれたと感じ、アグレッシブな行動に出ることにしたようだった。


「しょうせつよりずいぶんはやいな」

その話を兄さんから聞いて、俺が思わず呟くと、

「でも、予想の範囲内だ」

兄さんは冷静な声で答えた。

「まあ、たしかに。さいきんずいぶんあせってたみたいだから」

言われてみれば、それほど意外なことでもないなと俺も納得した。


「お祖父さまが対策を取られているから、何の問題もないしな」

「うん」

俺が兄さんの言葉にうなずいていると、そこへ、

「でもたいけつするんでしょ!?」

いつの間にか部屋に入り込んでいた末弟が弾む声で口をはさんできた。

「エルヴィン……」

兄さんがため息をつく。そんな兄さんが話し出す前に、俺は、可愛い弟の前で腰をかがめて視線を合わせて、

「そうだよな、対決したいよな」

と言った。


 すると、

「アンゼルム……」

兄さんがため息をついて、俺の名前を呼ぶ。大丈夫、わかってるよ。

「だけど、いまはおとなにまかせよう?」

「まかせる?」

エルヴィンが不満そうな顔になる。

「おばあさまとおじいさまにいわれたんだ」

大人に任せてほしい。それが大人の仕事だから、って。


「でも、ぼくほんとはおとなだよ?」

「そうだね、ぜんせのねんれいもふくめたらね」

エルヴィンは前世の年齢とあわせても大人と言えるかはわからないけど、それは今指摘すべきことではないだろう。今は他の言葉を選ぶことにする。

「だけど、だから、わかるんだよ」

大人は大人の役割を果たさなきゃいけないって。

「おとなのやくわり?」

「そう。それをこどもにやらせちゃいけないんだ」

「その通りだ」

よくわかっているな、アンゼルム。と兄さんが少し意外そうな声で褒めてくれた。


 わかってるよ、俺だって。一応前世では成人してたんだから。

「おとなのやくわり……」

エルヴィンはしばらく考え込んだ後、

「うん、わかったよ。このせかいでもおとなになったら、ぼくがつぎのこにしてあげるんだね」

わかってくれた。

「えらいぞ!エルヴィン!」

うちの弟は何て賢いんだろう!次の世代の子を守ることにまで思い至れるなんて!


 感動して頭をなでていると、

「アンゼルム……」

少しあきれた兄さんの声が聞こえたけど、

「だが、確かに偉いぞ、エルヴィン。よく考えた」

兄さんもエルヴィンを褒めた。

「えへへ……」

兄2人に褒められて、エルヴィンは嬉しそうに照れくさそうに笑う。

「いまは、おばあさまとおじいさまにおまかせするのがこどものしごとだね」

「そうそう、こどもはまもってもらおう」

エルヴィンの頭を撫でながら、俺は頷いた。……そう、この時は俺は、確かに、お祖母さまとお祖父さまにお任せして、俺達兄弟は直接関わらないつもりだったんだ。思いもよらない流れで巻き込まれることも知らずに。

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