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あの子に会いに行く

「緊張しているか?」

末っ子と、そしてアンネマリー様に会いにクラルヴァイン公爵家へ向かう馬車の中で、兄さんに聞かれた俺は、

「うん」

素直に頷いた。正直緊張している。昨日いつものように転移の魔法陣で会いにきてくれたお母さまに、大丈夫と励ましてもらったけど、それでも緊張は拭いきれなかった。お母さまは、お祖母さまともやり取りをしているらしく、ただ言葉だけ励ましてるんじゃなくて、あちらの事情を知った上での励ましみたいだったけど。


 それでも、

「やっぱりきんちょうしちゃうよ」

俺は溜息をついた。すると、兄さんも、

「実は俺もだ」

と苦笑した。

「そうなの?」

ちょっと驚いた俺に、

「それはそうだろう」

兄さんは笑う。そうか、兄さんでも緊張しているのか。それなら仕方ない。


「あずき」

俺達が揃って緊張しているのが伝わったのか、一緒に馬車に乗って床に伏せていたあずきが、なだめるように俺の手をぺろりなめた。今日はソラにも会えるはずだから、お祖母さまがあずきも連れてくるといいと言ってくれだんだ。ソラは、あずきより前世では年下で、あずきはソラの面倒をよく見てたから、2匹も喜んでくれるかなと俺は、お祖母さまのお言葉に甘えた。もちろん末っ子も喜んでくれるはずだ。あずきのことも可愛がっていたというか、あずきから可愛がってもらっていたというか、だしな。

「ありがと」

あずきの頭をお礼を込めてなでると、あずきの尻尾がゆったりと振られた。


わしゃわしゃとあずきを撫でていると、

「そろそろ着くな」

と呟いた兄さんが、馬車の窓のカーテンを閉める。

「どうしたの?」

外に出る機会が中々ないから、外を見るのは気が紛れて楽しかったのに。

「もしかしたらあの男とすれ違うかもしれない時間だから、閉めるように言われているんだ」

たぶん不満そうな俺の頭をなだめるように撫でながら、兄さんが教えてくれた。


「……じゃあ、しかたないね」

俺達の今世での生物学上の父親は、今は離れに押し込められているらしい。小説の中では主人公が追いやられている場所だ。クラルヴァイン公爵家の本邸に戻ったお祖母さまが、アンネマリー様に良からぬことができないようにそう采配したと聞いている。あの男に情報を流しそうな使用人も一緒に移したそうだ。他方で、離れには、お祖母さまの息のかかった使用人もいて、あの男の動向をばっちり掴んでいるんだって。さすがだ。とはいえ、小説の中では、幼い主人公はほぼ幽閉されているような状態で育ったけど、あの男は大人だ。それに、一応クラルヴァイン公爵家の後継者とみなされているから、閑職ながら騎士団に役職が与えられているらしく、離れに閉じこもりっぱなしというわけではない。


「閑職な上、最近ますます立ち位置が微妙になっているらしいから、今までになく真面目に出仕しているらしいよ」

苦笑交じりに兄さんが教えてくれたところによると、お祖母さまが本邸に戻ったことで、当主夫妻が孫の養育に関わるらしいと推測され、お祖父さまは、息子を飛び越えて、孫に当主の座を譲るのではないかと噂になっているらしい。

「じっさい、ありえるかも」

ふむ、と俺がまだ短い腕を頑張って組みながら言うと、兄さんはそんな俺をほほえまし気に笑って見つつ、

「まあ、そうなるんじゃないか」

と俺たちの父親にシビアなことをさらっと言った。


馬車の中でそんなやり取りをしていると、やがて馬車が静かに止まった。

「着いたようだな」

クラルヴァイン公爵家の本邸に到着したらしい。御者と門番らしき人が何やらやり取りしているのが聞こえてきた後、割とすぐに馬車はまた走り出した。ちゃんと話は通っていたみたい。とうとう着いた、と緊張する俺の手に、そっと兄さんの手が添えられた。いつもより少し兄さんの手が冷たい気がする。やっぱり兄さんも緊張しているんだろう。だから、俺からも手を伸ばして兄さんの手を握った。

「あ」

馬車が止まった。しばらくして、扉が外から開かれる。さあ、いよいよだ。俺は兄さんの手をぎゅっと握ったまま、立ち上がった。

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