もうすぐあの子に会える!
その知らせをもたらしてくれたのはお祖父さまだった。
「エルヴィンのところにも?」
「ああ。ソラ、とエルヴィンは呼んでいる」
「やっぱりそうだ!」
思わず立ち上がった俺を、
「少し落ち着きなさい」
お祖父さまが窘める。
今会っているのは、父方のオスヴィンお祖父さまだ。お祖父さまは決して厳格なだけの方じゃないんだけど、兄さんが誤解されやすい方だと言っていたのがちょっとわかってしまういかにも厳格な見た目だ。前世からのコミュニケーション強者、兄さんはあっさりと懐いてみせてお祖母さまを驚かせたそうだけど、確かに初めて会うちびっ子をビビらせる風体だ。俺は、初めて会ったとき、俺を見下ろすお祖父さまの目に、不安を見つけたから、まっすぐに近づいてぎゅっと抱き着いて懐いたけど。一応持ってる前世の成人までの記憶が役に立った。
お祖父さまと引き合わされてからは、エルヴィンの誕生が近くなったので来れなくなったお祖母さまの代わりにお祖父さまが来てくれるようになった。待望の末弟エルヴィンの誕生を知らせてくれたのもお祖父さまだ。そして、今日、また大切な知らせをもたらしてくれた。俺のところにあずきが来てくれたように、エルヴィンのところにもフェンリルが現れたらしい。
「ソラ、とは前世で飼っていた犬の名前です。ということは、エルヴィンにも前世の記憶がある様子が……?」
俺より冷静な兄さんが聞く。
「どうもあるようだ」
お祖父さまは重々しく頷いた。やっぱり。兄さんと俺は頷きあった。
「フェンリルのことを最初からソラと迷わず呼んでいたし、兄を求めるように「にーに」と言っている」
お祖父さまのにーに、はちょっと気恥ずかしげで可愛かった。じゃなくて、
「やっぱり!」
俺は、また立ち上がってしまった。まだ2語文を喋り始めたばかりらしいのに、さすが我が末弟だ。
「会えますか?」
やっぱり俺より冷静な兄さんが、俺に座るように促しながら聞いた。
「もちろん」
お祖父さまは頷いてくれたけど、兄さんは、
「アンネマリー様はなんと……?」
躊躇いがちに聞いた。確かにそうだ。妻であるアンネマリー様にしてみれば、俺たち外でてきた子は微妙な存在だろう。しかも、自分の子よりも年上だ。もちろん、兄さんや俺がクラルヴァイン公爵家を継ぐことなんてあり得ないけど、厄介な存在に感じられるだろう。そんな配慮もあるから、実は俺たちは、まだエルヴィンに会いに行ったことがないのだ。もちろんお祖父さまやお祖母さまにどんな様子かはこまめに教えてもらっているけれども。
「アンネマリー様は是非にと。エルヴィンが会いたがっているし、助け合える兄弟がいるのはいいことだと」
「そう言っていただけるのはありがいことです」
兄さんはほっとしたように言った。
「大人の事情をさておいて、子のことを考えられる人なのだ」
お祖父さまは、アンネマリー様を評した。
「それに政略結婚であるしな」
まだ幼児な俺に配慮したのか、お祖父さまは、だから、嫉妬することはない、とまでは言わなかったけど、まあそういうことだろう。
「結婚の理由は政略だけではなかったようだが……」
「せいりゃくだけじゃない?」
何だか歯切れの悪いお祖父さまの言葉を思わず聞き返したけど、
「いずれわかるだろう」
としかお祖父さまは答えてくれなかった。そんなお祖父さまの態度に兄さんと俺は顔を見合わせて首をかしげたんだけど、その疑問はアンネマリー様との初対面の日に解消されたのだった。
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