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もうすぐあの子もこの世に生まれてくる

 この世界には、鉄道や飛行機のような高速の移動手段はない。そして、転移の魔道具は安定して設置しなければならないので、研究都市への移動中はお母さまはそれを使うことはできない。だから、

「寂しいな」

兄さんに言われて、

「うん」

素直に頷いた。寂しい。

「でも、だいじょうぶ!兄さんもみんなもあずきもいてくれるから!」

「そうか」

俺の言葉がやせ我慢じゃないとわかってくれたんだろう、兄さんは優しく頷いた。


 ここで一緒に暮らしている人達だけじゃない。お母さまが出発した後は、お祖父さまも魔道具の勉強のために、と訪問してくれるようになった。こっそりと、自分の馬車ではなくアッヘンバッハ侯爵家の馬車を回してもらって来ているんだって。父親をけん制するためにクラルヴァイン公爵家に戻ったお祖母さまも、こまめに戻ってきてくれる。今日もお祖母さまが昼間に寄ってくれる予定だ。

「しばらくこれないの?」

昼食後に現れた、お祖母さまの言葉を、俺はこてんと首をかしげなから、聞き返した。

「そうなのだ。……お前たちの弟が生まれる日が近いからな」

「弟」

「おとうと!」

お祖母さまの言葉に、兄さんと俺は目を輝かせた。とうとうあの子も生まれてくる!


 そんな俺たちを、

「まだ前世の弟とは限らないぞ」

窘めたお祖母さまだったけど、俺たちが実際に前世も今世も兄弟だから、ありそうなことだとは思っているみたい。

「必ず守ると誓おう」

と言ってくれたので、

「よろしくお願いします」

「おねがいします」

兄さんと声を揃えてお願いした。


「お前たちのお祖父さまも気にかけているのだ」

お祖父さま?お前たちの、ということは、父方の祖父ということかな。

「協力しあって、約束を守るよ」

ずっと別居していたと聞いているのに、協力しあうと自然に言うお祖母さまの言葉に、兄さんが肩をすくめた。

「相変わらず不思議な関係ですね」


 兄さんによると、お祖母さまとお祖父さまは別に仲が悪くて別居していたわけでもないらしい。

「一緒に暮らすのに向いていなかっただけでな」

と、幼児の孫に言っても仕方ないことを、お祖母さまは言ってる。

「お前たちにも近いうちに会いたいと言っていたぞ」

「たのしみ!」

まあ、夫婦のことは夫婦にしかわからないって、前世で誰かが言ってたしな。前世で結婚したこともなく、今世では幼児な俺は、祖父母の結婚生活についてはそう片づけておくことにした。

「お前たちの弟が生まれる前にもう1度はここに来て、お前たちと引き合わせておこう」


 ちなみに兄さんはお祖父さまに会ったことがあるらしい。

「どんなひと?」

「そうだな。誤解されやすいが、優しい方だよ」

「ふーん?」

小説の中ではあまり触れられてなかったから、どういう人かよくわからなかったな、そういえば。実際に会ったことのある兄さんが言うなら、きっとそういう人なんだろう。

「やっぱりたのしみ」

「ああ、なるべく早く会える機会を作ろう」

お祖母さまは俺の反応にほっとしたように言ったので、やっぱりお祖母さまとお祖父さまは仲が悪いわけではないらしいなんて、俺は結局幼児らしからぬことを思ったのだった。

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