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すべてのはじまりは愛犬と

 全てを思い出したのは、その姿を目にしたときだった。

「あじゅき!」

そこにいたのは、確かに前世で溺愛していた愛犬、あずきだった。

「アンゼルム様!?」

あずきに向かって、迷いなく歩き出した僕に我が家の侍女のブリギッタが慌てているが、大丈夫、あずきだから。


「あじゅき」

まだ回らない口では正確に呼べないけど、とてとてと歩み寄る僕をあずきは受け止めて、伸ばした手をふんふんと嗅いでからぺろっとなめてくれた。

「アンゼルム様!?」

背後から、ブリギッタの悲鳴のような声が聞こえる。まあそれも無理もない。前世での小豆は可愛い黒柴だったけど、今の小豆は……、これたぶんフェンリルだよな?そういえば、アンゼルムは、幼いころにフェンリルと契約できたことだけが取り柄なんだよな。って、何だこの記憶は。


「うっ……」

立ちくらんだ俺がとっさにあずきに抱き着くと、あずきはしっかりと支えてくれる。

「しょうか……」

そうか、ここは「聖なる剣を継ぐ者」の世界。


 そして俺はまさかの……と考えに沈みそうになったとき、

「アンゼルム!」

お母様の声がした。蘇った記憶の精査はあとだ。今はとりあえずあずきと引き離されないようにしなくては。

「アンゼルム、その……」

「このこ、ぼくの!」

あずきを遠ざけるように言おうとしたであろうお母様の言葉を最後まで言わせずに遮る。そして、ぎゅっとあずきにしがみついてみせた。離れないぞ。強い意思を込めてお母様を見上げる。

「だけど……」

今世ではフェンリルなあずきの危険性を気にしているだろうお母様の言葉をもう1度遮らせてもらって、

「だいじょぶ!」

言い張る。


 この俺を支えてくれている様子を見れば、大丈夫だとわかりそうなのにと思いつつも、さらに安心してもらおうと、

「おしゅわり!」

前世で兄さんが躾けたとおり、回らない口で、それでも精一杯ピシッと指示する。

 すると、前世と同じようにあずきがぴしりっとお座りをしてくれた。よしよし。気を良くして、

「おちぇ!」

今度は、手を差し伸べてお手!を指示する。

「「まあ!」」

今度もあずきはちゃんと俺の片言の指示に従ってくれた。前世であずきがうちに来たときより小さな俺を慮って、あずきはそっと俺の手のひらに足を乗せてくれる。そんなあずきに、お母様とブリギッタが感嘆の声を上げたのが聞こえて、俺はご満悦になった。


 ので、調子に乗った俺は、

「おきゃわり!」

反対側の手のひらも差し出す。もちろん賢いあずきは、反対側の足をそっと俺の小さな手のひらに乗せてくれた。

「ね!」

大丈夫でしょ!と俺はドヤ顔でお母様を見あげて

「このこ、ぼくの!いっちょ!」

あずきと一緒にいる!と強く主張する。


 そうすると、お母様は、

「……仕方ないわね」

ため息をついて頷いた。やった!お母様は俺に甘いから最後は頷いてくれると思ってた。俺の生い立ちに負い目があるらしく、お母様は前世の記憶がよみがえった今の俺からすれば、甘すぎるくらいだ。だけど、これからはそれを利用させてもらおう。何しろ将来の俺は悪役令息で、そのときお母様は、典型的な継子いじめをする後妻になるのだ。生まれ変わってもらうか、物語から退場してもらわなければ。


 もちろん、いじめ、ダメ絶対。だし、このとき俺は確信していたのだ。前世の俺達3兄弟は、きっとまた3兄弟として生まれ変わっていると。根拠はないけど、確信していた。だから、

「がんばろー!」

絶対に物語を変えて兄弟を守るのだ!拳をあげた俺に、

「わうっ」

協力するよ、と言うようにあずきが小さく吠えて答えてくれた。

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