第8話 Dランク昇格へカーゴを飛ばして
ミラータワー内にあるクエストセンターは今日も望鏡者たちが依頼の受注や報告でガヤガヤと騒がしい。
円形に構えた木の受付カウンターで望鏡者たちを捌いていくミラー機関の職員たち。
目立つ金髪魔術師に黒いパーカーショートデニム。並び立つ2人も本日ここに呼び出され用事があり。
対応する銀髪職員サティはほぼ彼ら望鏡者パーティーの専属となっていた。
「なんで上がれないの」
「すみません黒兎様魔術師アイ様。Fランク2つCランク3つのクエストをこなしてDランク昇格への実力は十分ですがやはり新規のパーティーで2人だけというのは前例が少ない事なので」
「2人の方がすごい」
「いや、2人だからだな」
「ええ、申し訳ありません。ですのでこれは現状から進むための提案なのですがミラー機関が推薦した人物を1人……期間を限定して望鏡パーティー紅ノ瞳に加えていただけないかと」
「そ、それは…………あぁそういうことか。頼みます」
「え」
突然の提案に高速のイメージ構築、何かに納得した様子の魔術師アイは顎に達しようとした手、指を前にパチンと鳴らし微笑んだ。
「はい! ありがとうございます、ではいつ頃からに」
「次のクエストからでいいんじゃないか、魔術師でも剣士でもムササビでも誰でも魔術師アイは合わせられますよ!」
「ふふ、それはたのしみです」
「…………」
得意気になりカウンターごしに話しを擦り合わせていく金髪と銀髪。
紅い瞳がチラリと横目にうかがいそれから押し黙ったままの彼女をおいて、次々と重要ごとが決まっていってしまった。
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その後、用の無くなったミラータワーを出た2人は郊外の魔術師アイの自宅へと戻った。
「なんで入れたの?」
ぎろり、道中薄々は感じていた僅かな不機嫌。少しいつもより鋭いその眼差しにも動じず魔術師アイは答えた。
「これは避けては通れないとみた」
「避けては通れない?」
「いじわるならわざわざ推薦した望鏡者なんて寄越さないし、きっと売り出し中の俺たちの実力を測って上に報告するためだろう!」
「……合体魔法は? バレない方がいいの?」
「はっ、今更気にするかよ! 追放されてんだやっと軌道に乗ってきた天才魔術師アイの生命線を捨てられるかよ。ハク十の師匠だって恐れる魔術師アイの合体魔法なら」
「望鏡都市のラミラ様もいずれ拍手喝采だろ!」
「ラミラ様はさすがにおおきくですぎ」
「おい! ま、見たことねぇし全然知らないけど……とにかく、あぁ何言うかわすれた! がんばろうぜ?」
「うんがんばって稼ぐ」
今日はミラー機関からのクエストも受けていない。にやけ合った2人は別れ、それぞれの時間を過ごしこの日を終えた。
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当日の昼過ぎ、銀髪の受付職員サティと約束した推薦された望鏡者と会う予定だったが現地にて、ということであった。
魔術師アイと黒兎の2人はカーゴ屋から購入した魔力カーゴに乗り事前に待ち合わせていた場所へと向かった。
鏡の降り注ぐ場所、望鏡都市ラミラ周辺を囲む荒野に対応するために生まれた乗り物カーゴ。地面から少し浮遊し移動出来るこの乗り物は荒れた地でもその性能を狂いなく発揮出来るためラミラで重宝されている。
既に命名、俺魔術師アイの愛機フロートアイス、淡い青い色をしたイカしたカーゴだ。
カーゴは基盤となるシンプルな鉄板に操作レバーと手すりを好きな位置に取り付けカスタム出来る、更にどの面からも出し入れ出来る優れた荷入れボックスを後ろに付ければだいたい完成する。魔術師の魔術と同じでパーツカスタマイズの豊富さ遊び心があるのは好きだな。
なんと言ってもこのカーゴの全てを支えている板、技術的に再現が不可なオーパーツらしい。まだ神々と交流していた時代の友好の品であると言われているらしい。日々カスタマイズのパーツは増えていくしカーゴも魔術ぐらい可能性に満ち溢れた分野である事は間違いない。
「カーゴって最高!! 魔術師じゃなかったらカーゴ屋だったかもなぁ、黒兎カーゴは好きか!」
「まぁまぁ!」
風音がうるさい、声を張り上げながら会話する2人を乗せカーゴはゆく。
砂塵よけのゴーグルをし後ろの銀の手すりへと捕まり立つ黒兎。耳を垂れ下げながら、風を裂き靡く金の毛を見つめ。
魔力を注ぎ愛機であるフロートアイスを飛ばし、魔術師アイは荷と黒兎を背に目的地へと急いだ。
カスタマイズした愛機と共に風を切りご機嫌、少々張り切りすぎたのか先に着いてしまい。指示された場へとやって来たが。
望鏡者として認められた時に貰う鏡の欠片のペンダント、称して望鏡者ペンダントは記憶指定されたポイントの景色の一部を切り取りその場まで指し示し誘導するコンパスとなる。
これをカーゴ前方の制御台に置くことでミラーマップとなり多少のぶれはあるが目的地へと無事たどり着けるのだ。
まだ明るい荒野、カーゴを止め古杖や飲料水など荷を取り出し3分ほど待っていると。
砂塵を静かに巻き上げながら現れた黄色いカーゴ。
ゴーグルを取り外し、待ち人の元へと急ぎ、美しく靡き煌めく銀をかるくととのえた。
「お待たせしました」
「んサティさん? えっと推薦の望鏡者はどこだ?」
予期していなかった職員の登場に辺りを見渡す。ぐるりと首を回すも何もない荒野と丘陵が流れるばかりであり。
再び視線は前に立つ銀髪の女性の元へと戻り。深くセミロングの銀は垂れ下がり一礼をして、もとに直り微笑んだ。
「ミラー機関クエストセンター受付職員、望鏡者サティです。よろしくお願いします望鏡パーティー紅ノ瞳のみなさま」
聞き間違えはなかった。この場には1人、紅ノ瞳の元にやってきた銀髪の人物が1人。
思わぬ出会いと出来事に望鏡パーティーは黒耳をピクリと跳ねさせ警戒、顎に手を当て訝しみイメージ構築を開始した。