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お亡くなりになったけど、昇天しなかったので幼馴染に取り憑くことにします。

作者: 早乙女由樹

この世界には大きく分けて二つ種族が存在し、人族と魔族に分けられる。現在、人族は魔族からの攻撃及び占領を受けており、俺が住んでいる街もじきに攻撃を受けるだろう。


そんな中、俺は死んだ。


魔族の作った新たな拠点を偵察する遠征中に死んだ。


突然飛び出してきた見たこともない複数の魔物たちとの交戦中、無我夢中で剣を振り回していたら、攻撃を捌ききれずに鎧を破壊するほどの斬撃を受けて亡骸になった。


たまたま幼馴染のリンが背後にいて、なんか俺がリンをかばって死んだことになっているが、決してそんなことはない。


なんで俺が死んだのにそんなこと知ってるかって?


だって俺、肉体は死んだけど魂は昇天しなかったんだもん。よくわかんないけど魔法も普通に使える。ちゃんと相手に攻撃は通用するしスキルも使える。くわしいことは知らん。俺に聞くな。


だから俺は幼馴染に取り憑いて全力でサポートしようと思う。異論は認めない。





俺が死んでから二週間が経過した。今はリンが借りている宿屋の部屋にいる。リンとは元々同じ村の出身で生まれたときからの幼馴染だ。この街に来る頃から付き合い始めて、ずっと一緒にいる。本当は、あの遠征の後にプロポーズしようと指輪を頼んでおいたけど、いつのまにかリンがネックレスにしてつけていて驚いた。


宿屋の部屋は基本同じでやることはしっかりヤってる。隣の部屋には同じパーティーのシスターと騎士がいる。シスターが少しヤンデレ気質があるけど、騎士のほうは満更でもないみたいだし、ほおっておこう。共依存の関係なら問題ないだろう。


最近は、三日に一回の頻度で魔物の討伐クエストを受けている。


ちなみに、俺がリンに取り憑いていることはすぐにばれた。なんてったって、生前のステータスがすべてリンに上乗せされたからだ。突然強くなったらおかしいと感じるのも当然で、危うく除霊されかけた。あの時は本当に死ぬかと思った。


リンが俺の存在をしっかりと把握すると、『以心伝心』という、生前からお互い持っていたけれど使えなかった(使い方がわからなかった)スキルを使えるようになった。


「シオン!今日はトレントの討伐なんだよ!」

『トレントなら余裕だな』


トレントは木の姿をした三メートルぐらいの大きさの怪物だ。木の枝を鞭みたいに使って攻撃してくる。リンの話によると、今回の個体は『炎無効』のスキルを持っているらしい。


「今の私達の力なら、負けるものはないもんね」

『しっかりと一級フラグ建築士の力を発揮すんなよ』

「そんなフラグ、シオンならへし折ってくれるでしょ?」

『死亡フラグだけは絶対にへし折るよ?他は……できるだけ頑張る』

「リン、そろそろ出発しますよ」


シスターのメアリが何回か扉をノックしてリンを呼ぶ。彼女は一応シスターとしてパーティーに入っているが、メイスを振り回して前線で戦うタイプだ。戦闘スキルはそこら辺の戦士よりかは圧倒的にある。


「ちょっとまって!今行くから!」


あわてて装備をつけて武器を持ってリンの後を追って俺達は宿屋を出た。


ちなみに、リンは魔法使いで長い杖を持っているが、先端には鋭利な角がある金属の塊がついており、振り回して戦うこともある。ちなみにヒールをしてくれるのはいつもリンだ。


街の中を歩いて移動していると、門のほうで歓声が上がっているのが聞こえた。


「なんか今日は妙に騒がしいね」

「勇者様方がこの街に来たそうですよ。なんでも、クエストを予定よりも大幅に短く終わらせて来たんだとか」

『リン、知り合いだからって失礼なこと言うなよ?』

「大丈夫。私だってそれなりの礼儀はわきまえてるから」

「おいリン。シオンと話すのはいいが、はたから見たら独り言がやばいやつだからな」

「大丈夫だって、アルス。この人混みじゃあ誰も聞いてないから」


アルスはメアリの彼氏で騎士だ。こっちは純粋に剣を使って戦っている。唯一の常識人枠……ではないな。

しばらく歩いていると勇者の姿が見えてきた。


「やっぱり、あのボンキュッボンのスタイルで『くっ、殺せ!』って言ってるのを想像するといいよね」

『おいリン。さすがに失礼だぞ』


そう言ってデコピンぐらいの強さの風魔法をリンに放つ。


「いてっ……てか、なんでこの街に来たんだろう?」

「そりゃあれだろ。シオンが死んだって聞いていてもたってもいられなくなったんだろ」

「アルス、それ以上は言ってはいけませんよ?」


リンの目からハイライトが消えた。メアリの注意を受けるがアルスは話し続ける。


「だってあの勇者様、シオンに惚れて……」

「勇者が誰に惚れてるって?」

『リン、落ちつけ。その振りあげてる杖をおろすんだ』

「あ、えと、いや、その……」


アルスの顔が絶望へと変わった。それと同時に、メアリの目からもハイライトが消えた。


「ねぇアルス?アルスはあの勇者のことが好きなの?私のこと嫌いになったの?浮気したの?アルスは私よりも勇者のほうが大切なの?私はこんなにもアルスを愛してるのに……」

「俺が好きなのはメアリだけだから!いてっ!本気で殴んなよ!」

「誰が口答えしていいって?」

「ひっ…ごめんなさい、ごめんなさい、俺が愛してるのは今もこれからもメアリだけです」

『リン、俺はリン一筋だから。なにがあっても俺にはリンしかいないから!だからその攻撃を止めてくれ!このままだとアルスが亡骸になっちまう』


いや、こいつ今までも二人に殴られまくってたけど生きてるから止めなくてもいいのか?


「シオンがそこまで言うなら……アルス?次同じようなこと言ったら骨が見えるまで殴るからね?」

「ごめんなさい……」


この二人だけは絶対に怒らせてはいけないと強く心に刻んだ。

さて、気を取り直してクエストに向かおう。勇者一行の横をすれ違ったときに、勇者と目が合った気がしたのは黙っておこう。





「ここがトレントがいる森だな」

「今回のトレントは燃やせませんし、どうしましょう?」

「ぶん殴って粉砕すればよくない?」

「それしかないですよね」

『魔法使いの発言とは思えないほどの脳筋発言だな!』

「えへへ」

『ほめてないぞ?』


とはいっても、燃やせないトレントの討伐方法は破壊しかないから正しいんだけどな。


『それじゃあリンは周りは気にせずに本体を破壊してくれ。リンに来る攻撃は全部防ぐから』

「りょーかい!」


森に入って少し歩くと、木々がやけに枯れている場所に出た。トレントはエナジードレイン、つまり生命力を根から吸収して生きているので、トレントの周りの植物は枯れていることが多い。


「そろそろだな」

『何とは言わないけど、やりすぎるなよ?』

「砕きすぎるとかそんなヘマはしないから大丈夫!」

『それならいいけど……』


皆が構えると、奥のほうからトレントが走ってきた。なわばりに入られたことが嫌だったみたいだ。


「おりゃぁぁぁあ!」


リンが走って近づくと、鞭のようなしなやかな枝がリンを攻撃する。風魔法の『エアカッター』を大量に発動し、リンに向けられた枝をひとつ残らず切り刻む。


「おいメアリ!一人で先に行くな!」

「大丈夫ですよ。アルスなら私のこと絶対に守ってくれるでしょう?」

「勝手な行動されたら守れるものも守れないだろ!」

「それでも守るのが騎士でしょう?」

「無茶振りすんな!」


あっちはあっちで毎回同じことしてるなー、なんて思いながらリンに強化魔法の『攻撃力上昇』をかける。ついでにアルスとメアリにも同じものをかけておく。


「メアリ!そろそろいくよ!」

「わかったわ!」


二人は一度後方に下がってから息を合わせて最後の一撃をはなつ。


「「せーのっ!」」


既にボロボロになっているトレントに容赦のない一撃を食らわせると、トレントは砕けてバラバラになった。この木材のかけらだけ見ればトレントとはわからないぐらいバラバラだ。


「これだけ砕けば再生できないでしょ」

「あのな、二人とも……それだけ砕いたってことは集めるのが大変になるってことだからな?」

「「……」」

『だからやりすぎるなよって言ったのに』

「さっさと片づけるぞ」


アルスは一人でいそいそと片づけを始めた。俺も風魔法で遠くに散らばった木片を一か所に集め始める。

棒立ちで放心状態だった二人も集め始めた。





「こんなもんかな」

「そうですね」

「よし、帰ろう!」


結局、片付けだけに三時間かかり、俺たちは森をあとにした。


街について冒険者ギルドに行くと、クエストの達成報告とトレントの亡骸の換金をしてもらい、山分けをして冒険者ギルドを出た。


「いや~意外と儲かったな」

「そうですね」

「それじゃあ今日はシオンとデートだからまたね!」

「気をつけろよ」

「楽しんできてくださいね」

「ばいば~い!」


外は日が落ちてきていて薄暗くなってきていた。


『それで、今からどこ行くんだ?』

「今日はごはんだけ買って宿屋に戻るよ」

『いいのか?デート行かなくて』

「いいのいいの。外にいたらまた勇者に会っちゃうかもしれないし」


そう言って軽食屋に入ろうとすると、店内から勇者が出てきた。


「おっ、リン殿ではないか!奇遇だな!ちょうどいろいろと話がしたかったのだ。今日は一人……いや、二人かな。このあと宿に戻るだけなら一緒に食べないか?」

「なっ、なんでくっ殺勇者が……それに、二人ってなんで……」

『一級フラグ建築士の力ってすごいな。あとくっ殺勇者はやめてあげて』

「で、どうだ?」

「今日はシオンといたかったけど、こいつにもシオンのこと見えてるみたいだし、でもやっぱり……」

『俺はずっとリンのことしか愛してないし、これから愛するのもリンだけだぞ』

「それなら……い、いいわよ?一緒にご飯食べても」

「おお!そう言ってもらえるとうれしいよ!」

『リン、もうフラグはたてるなよ?』

「が、がんばる……」


この後の食事でどうなったのかはまた別の話。

リンが一級フラグ建築士の力を使うのは間違いないけどな!

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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