第3節
「また来たのか、アンタ」
「うん。まあね」
次の日、農夫たちの村で目を覚ました僕は昨日話をした男に会いに行った。
挨拶もそこそこに彼らの働きをまたぼーっと見てみるが今日は怒号を浴びせてくる見張りは居ない。
「……君達は何故こんな理不尽に耐えてるんだい?冬が来たら餓死する人が増えそうだけどそれでもいいのかい?」
「いいわけねぇだろ。けど俺達にはまともな武器もない、どう戦えばいいのかもわからない。そんな状態で反乱なんて起こせるか。無駄死にするのは目に見えてる」
「そう……」
最初から結果が見えているから何もしない。
そんなことをずっと続けても意味はないと思うけど……それが彼らの決定なら僕はどうでもいいや。
「さあ、とっとと帰れ。お前も家族が居るだろう?」
「家族?」
そんなもの僕自身でも思い出せない程大昔に殺してしまってもう存在しないんだけど……
「どうした?」
「ああ、いや」
適当にでっち上げるか。
「遠いところに居るから、心配するような人も居ないよ」
「そうか、けどここに居てもお前が損するだけだぞ。あいつらに鞭うたれるのはいやだろう?」
「そうだね……」
ここは僕が住むには面倒ごとが多そうだ。
名前だけ貰って後は適当な……人がいる場所に行こう。
そう考えていた時だった。
「貴様等!さっさと税の麦を治めにこんか!!首を刎ねられたいのか!」
農夫たちにとっては見たくもないであろう存在、馬に跨って長剣を振りかざす見張り達が現れてた。
大声でがなり立て税を寄越せと言ってくるその姿はどこか森の吠え猿を見ている心境にさせてくれる。
「貴様!そこの!!」
「うん?」
昨日の様にぼーっと見ていたら見張りに乗った馬……いや馬に乗った見張りに怒鳴られた。
「貴様は昨日もサボっていたな。いいだろうそんなに休みたいならこの私が休ませてやろうではないか」
長剣片手に突っ込んでくるその姿はとても堂に入っているけど……相手が誰だかわかってやっているのか?
「……止まれ」
周囲にほぼ聞き取れないほどの大きさで僕がそう呟く。
すると……
「うわぁ!?」
見張りは急に止まった馬のせいでつんのめって落馬してしまったではないか。
「大丈夫ですか?さあお手を」
これなら流石にばれないだろう。
とりあえず何故か馬が急停止したていにして僕は手を差し伸べて彼を助ければどうにかなるだろう。
「さあ、お手を」
「き、貴様ァッ!!」
予想と違う反応だった。
彼は落馬したのがとんでもなく恥ずかしかったのか顔をまるで烈火の如く紅潮させ……
「死ね!!」
倒れたまま彼は差し出した僕の腕を思いっきり切りつけてきた。
とっさに手を引いたのだが間に合わずに腕に当たり……
「あ……」
僕の右腕がボトリと落ちた。
正直痛みなどないが、それ以上にまずいのは……
「お、お前……何だその腕は!?」
赤かったはずの顔が今度は青ざめている。
まあなんとなく理由はわかる、そして後ろで恐らく村の農夫たちも同じ反応をしているだろうね。
そりゃあそうだ、まさか……
腕がいきなり大木に化ければ……そんな状況をみればね。