第1節
森の神と呼ばれた僕にはかつて数多くの敵がいた。
魔物、人間、僕以外の他の神様、その他諸々大勢だ。
そんな僕だからそれこそ産まれてからずっと戦って戦って戦い続けた。
「貴様!! ただでは済まさんぞ! この儂をこんな目に合わせて! 覚悟しておけ!!」
「もう少し気の利いたセリフが聞きたかったけど、もう飽きたから終わりにしようか。魔王さま」
巨大な城の広間に響き渡るほど喚き口から唾を吐く勢いでまくしたてるのは魔王、すべての魔族を従える王様だ。
立派な一対の角は片方が折れ、全身から血を流して膝をついている。
対する僕は無傷。枯れ葉色の髪の下にある頭も無事だ。
どう転んでも彼に勝機はないのだが……ただでは済まさん、覚悟しておけ、こんな言葉を吐いて強がっていられるのは彼の背後に控える大量の魔王軍がいるからだろう。
けど気にすることは無い、全員僕の力で青々とした『木』に変えてある。
後に残ったのは彼と僕のみ。
「じゃあね。機会があるならまた会おう」
「ま、待てーー」
今更配下の魔族が木に変えられていたことに気付き焦った声をあげるが僕は構わず構えていた巨大な木槌を魔王の脳天めがけて振り下ろした。
胡桃が割れるような小気味のいい音と共に辺り一面に鉄の匂いのする液体が飛び散った。
「最後は案外呆気ないものか。さてこのあとどうしようか」
魔王の亡き後はずっと寝っ転がっていられるほど平和になるだろう、僕の前から敵と呼べる存在が全て消えたのだから。
僕にとっての戦いは先ほどの魔王でもう完全に終わったのである。
とはいえ永遠にも等しい時を今後生きていくことになる。
なにか人生……いや神生における目標や意義が必要だ。
だがいくら考えてみても、僕の頭の中に特に目標という目標は無い……
となれば……
「目標が見つかるまで、スローライフを決め込もうか」
その時僕は決意した。
そうだ、森から出てみようと。
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