父上!私、一兵卒からやり直しますッ!
一応戦国を書こうと思ったのでちょっとだけ書きました。
続編の希望などご意見を元に決めていこうと思っているので試運転的な状況です。
コメントにお寄せください。
「岡崎次郎三郎信康!武田との内通の件において切腹とするッ!」
「は?」
天正七年(1579年)
「う、ううっ!わかぁぁぁぁっ!」
「そんなに泣いてくれるな、半蔵。」
傍らで顔から出るものが全て出ているこの髭面の男。
「ですがぁ〜!でぇすがぁ〜ッ!!」
「鬼半蔵と呼ばれたお主にすすり泣かれては私も腹を括って逝けぬだろう。」
「しかしっ!これでは若の苦労が浮かばれませぬ!」
服部半蔵はまだ十にもなっていない頃からの側近だ。
「よい、全てこの世が決めた運命だ。受け入れるしかなかろう。」
「ううっ・・・。」
「介錯は任せる・・・。辛いだろうがお前が冥土を示してくれたら迷わずに別れを告げれる・・・。」
「わがりまじだぁ〜〜〜。」
旧暦 九月十五日(10月5日)二俣城
「半蔵、今まで世話になった・・・。父上を・・・於義丸と長丸を、そして子供たちを頼む・・・。」
「・・・」
返事は無い。必死に顔を食いしばって溢れぬように耐えているのだろう。
小刀をとり鞘を抜くと不意に木格子から漏れる陽の光が跳ねかり輝く。
物心ついた時からの思い出が走馬灯のように流れる。
(父上、私をいつも気にかけて頼りにして下さりありがとうございました。思えば自分も孝行者とは程遠かったなぁ。短気でよく康政や半蔵に諌められたのが懐かしい。)
「父上が大成するのをこの目で見れなかったのが心残りであるが、もう悔いは流し尽くした!齢二十にて我が生に区切りをつけよう!」
ドスッ!!!
土手っ腹に突き刺した。
身体が激痛に苛まれ焼かれるような熱さを帯びる。
「はんぞう・・・、た・・のむ・・・。」
「ぐぐぐ・・・・ッ!」
介錯の半蔵は動かない。
流石の検死役も青い顔をする。
「半蔵殿!このままでは次郎三郎様の苦しみが終わりませぬッ!」
「は・・ん、ぞうッ!」
「斬れませぬ・・・。」
「ぐ・・・!?」
半蔵は・・・泣いていた。生気が抜けた顔で。
「斬れませぬ・・・ッ!」
(半蔵・・・。お前の忠節、私は死んでも忘れない。)
検死役が不味いと思ったのか前に走り出て刀を抜く。
「次郎三郎様!御免ッ!」
ヒュッン!
徳川次郎三郎信康(通称 岡崎次郎三郎信康。)
享年二十一。
真っ暗だーーーーーーーー。
どこまでも歩いている。しかし迷いはなくどこへかも分からぬままに歩いていた。
不意に横を振り向くと、そこには暗いばかりの空間とは隔絶されて見たこともない摩天楼が沢山立っている中で幸せそうに暮らす家族の姿があった。
(あれ・・・?知らない景色のはずなのに、どこか懐かしい・・・。それにあの家族を見ると他人事でもないかのように胸が熱い。)
目をこらそうとしたその時だった。
隔絶された空間の断片から眩い光が目の前を覆い尽くす。
「おぎゃあッ〜!おんぎゃー!」
(ぬ・・・、ここは?)
「おおっ!生まれたか。よくやった、瀬名!」
「はぁ、はぁ、ありがとうございます・・・。殿ッ!」
(目が開けづらいな。)
覚束ぬ視界の先をどうにか見ようとして体を動かしてみるが何も出来ない。
(ッ!?)
不意に頭上に二つの顔が現れる。
しかしそれは、信康にとって間違えることの無い人物だった。
(父上ッ!母上ッ!)
「おぎゃあッ!」
「おおっ!元気な子だ!徳川の未来も安泰じゃのう。」
「まぁ!気が早いですよ、殿。」
(ここは天国か!?だとすればなんて甘美な夢なんだ。)
腕をあげて喜ぼうとしたが上手く上がらない。全身に力が入らないのだ。
(んんッ!あれ?どうしても手が上がらないぞ?)
動かせる範囲で視線を落とした。
(な、ななッ!?手が小さく・・・って、俺、赤子になってるッ!?)
永禄二年(1559年)旧暦三月十五日(新暦 4月13日)
俺こと死んだはずだった徳川信康は再び松平竹千代として松平元康こと後の天下人、徳川家康の嫡男として生を受けたのだった。
そして・・・八年後。
「ま、待て!信康。元服したばかりとは言えそれだけは辞めてくれ!」
「じゃあ、言って参りまーす!」
走り去っては後の祭りである。残された家康は溜息を吐く。
「徳川家はこれからどうなっていくのだ・・・。」
何かと思って面談してみたもののその度肝を抜かれた言葉を思い出す。
「父上、私、織田家で一兵卒からやり直しますッ!だから徳川家は廃嫡で!」
父親の苦労をいざ知らず信康は一人野道を駆ける。
「さぁて、二度目の新たな人生、俺の思うがまま楽しく生きるぞぉー!」