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縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
四章
85/104

継承



ーーーーー



ひよりが今にも泣きそうな顔でリビングを飛び出して行く。

家を出て行こうとしているのなら追いかけようと思ったが、階段を駆け上がる音を聞いて巧は浮いた腰を下ろした。

テーブルには食べかけのミートソーススパゲティが残されている。


真壁が助かったのは素直に良かった。

しかしそのせいで先生の力が失われたのはかなりの痛手だ。

真壁の呪いの内容を何も知らなかったとは言え、ひよりがどれだけ彼を大切に想っているか知っているだけに自責の念が込み上げる。


「この事件の担当になった時、俺たちの起用は周りが反対してた。能力のない俺はお前との繋がりがあるから渋々納得してもらえたが、彼女を前線に送り込むには力不足過ぎると言われてたんだ」


だからと言って、上の命令に下っ端が簡単に逆らえるわけもない。

せめて予め真壁の呪いについて知っていたら、命令を無視してでも真壁の代わりになれたかもしれない。


真壁が友膳から与えられた命令は、葵から決して離れないことだった。

なぜ友膳は真壁を指名したのだろう。

自分が葵の監視役に選ばれなかったのは、経験の浅さや可視能力がないせいだと思い込んでいたがーーもしかして友膳は最初から真壁の呪いについて知っていたのではないか?


そもそも力不足の真壁を起用した理由。

まさかーー


「友膳は間違いなく真壁紗良の呪いの本質まで見抜いてた。彼女を僕につかせたのは、呪いを解いて僕との縁を繋がるためだろうね。ぶっちゃけ事件解決よりこっちの方が狙いだったんじゃないの。可視能力のある人間と僕との縁は繋げておけばより正確な榊家の情報が得られるし、僕の監視もしやすくなる」


だとしたら、友膳は目的のためにわざと真壁の命を危険に晒したことになる。

巧は拳を握りしめた。


友膳は部下から人望のある人間だ。

穏やかでありながら判断も指示も素早く的確。

人の内面を見抜く能力と人を懐柔する術のどちらも持ち合わせているため、彼がいれば聴取も直ぐに終わると評判だった。


ただ、あまりに完璧過ぎるゆえに一部の人間からは恐れられていたのも事実。

怪異を専門に扱っている班を率いているという点でも、距離を置かれていた理由の一つだろう。

巧も始めはその一部の中の一人だった。


しかし三年前。

葵が消えたと知り、どうしても事の真相を突き止めたくて彼を頼った。

あまり深く話した事はなかったが、向こうはこちらの存在を知っていたようだった。


「可視能力のない君がいきなり榊家に近づくのは危険過ぎます。しばらくは後方支援という形で手伝って頂けますか」


そうして班の雑務を手伝うようになり、怪異についてそれなりの知識は得た。

だが、得たのは知識だけで経験ではない。

異界で仲間が行方不明になった時でさえも実感が湧かなかった。

今回のことがなければ、きっと永遠に湧くことはなかっただろう。


葵が帰ってきてからは、突然班が慌ただしくなった。

友膳から命令を受けたのはその直後だ。

親友の榊葵を説得して、子ども三人が行方不明になった長期未決事件の事件解決に努めること。

そして、最重要は榊葵の従妹である榊ひよりを守り、彼女の信頼を獲得すること。

これも今思えば、ひよりの能力開花について予測していた上での命令だったように思える。


友膳は榊家についてどこまで知っていて、何を狙っているのだろうか。

そもそも、彼は本当に信用できる人間なのかもわからなくなっていた。


「まあ、友膳のことは後回しでいいや。ただの榊家の熱烈なファンかもしれないしね。問題はお前だよ」


と、突然葵から指を差された。


「お前は僕とのただのパイプ役で、それ以上の成果は誰からも期待されてない。でしょ?」


「……は、言ってくれるな」


間違いなく、巧も友膳に利用されたうちの一人だった。

反論する気も起こらない。


「僕と真壁との縁が繋がったことで、お前は充分役目を果たした。降りるなら今だと思うけど?」


事実、葵の言う通りだった。

班の中で誰一人として巧に期待している人間はいない。

先程の会議と偽ったリモートでの現状報告会でも、新人の頃から世話になっている先輩から「頼むからお前は出しゃばるな」と釘を刺されてしまった。

生きて帰れればそれでいい、とでも思われているのだろう。


死ぬのは恐ろしい。

……だが。


巧の頭には名のない男の姿が焼きついている。

まるで揺らぐ水面に漂う月のように静かで、不安定で儚げな人。

水面に映る煌々と照るその月は、誰にも汚されはしない。


ーーあの人はあの時、間違いなく俺に彼女を託した。

葵ではなく、能力のない佐々木巧という人間に。

であれば、周囲の期待や評価など関係ない。

俺のやるべきことをやるだけだ。


顔を上げると、葵と目が合った。


「見くびんな。今回の件は何があっても最後まで見届ける」


葵はやれやれと肩をすくめて見せる。


「一応親友として心配してやってんだよ。でもまあ、そこまで言うならこれはお前に預けとく」


葵はようやくフォークを手放して、ポケットから紙に包まれた何かを取り出し巧に渡した。

開いてみると、ひよりが持っていたものと同じ土鈴が出てくる。


「帰る時、もう一度異界に入った場所に戻ったら落ちてた。それはひよりちゃんのと対になってる神具の土鈴。先生が持ってたやつだよ」


「こんな大切なもの、お前が持ってるべきじゃないのか」


巧にそう問われると、葵は無言で左手を土鈴に近づけた。

すると、見えない力で勢いよく腕ごと後方に弾かれる。

その勢いに驚いて思わず立ち上がった。


「大丈夫か!?」


「見ての通り僕じゃ触れない。あの神に拒絶されてるみたいでさ、茜川小学校にも行ってみたけど入口付近で押し戻されて近づけなかった」


いてて、と腕を摩る葵を見て呆れながら腰を下ろす。


「実演しなくていい。というか、何したら神相手にそこまで嫌われるんだ」


「んー、それは置いといて。ーー遠藤真希を見つけるには小学校に行くしかない。だからお前に任せた」


やはり、遠藤真希について何か知っているような物言いをする。


「どうして遠藤真希と小学校が関係してると思うんだ」


「遠藤真希と和魂には深い関係がある。お前も見たでしょ。荒魂が子どもの姿になってるとこ。ひよりちゃんの様子からしてアレは遠藤真希の容姿で間違いない。怪異が魂の生前の容姿を真似て化けることは多いけど、怪異が魂自体を操るのは稀なケースだ」


先程、ひよりと怪異と魂の五感について話していたのを思い出した。


「ひよりさんが話してたが、融合ってやつか?」


怪異と魂が融合することで憑依したような状態になり、魂の五感を操ることができるようになるのかもしれない。

と、ひよりは言っていた。


「さすがだね。その通り、怪異が魂と融合することでその魂自体を操れるようになる。ただし、融合するには必要な条件が一つ」


葵は人差し指を立てた。


「それは、魂が怪異を望むこと」

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