連続失踪事件と従妹
「正直、本当に助かる。お前が言うように、俺が現場に行ったところで何もわからなかった」
「わからない方が幸せってこともあるよ」
何度目かわからないため息を吐く幼馴染に笑いかけた。
既に現場には足を運んでいるらしい。
しかし、それらしい縁が結ばれていたり何かが憑いてる様子もない。
本当に羨ましいくらいそういったモノとは無縁な奴だった。
巧は鞄から手帳を取り出し、事件について話し出す。
「F市 目境町で十年に一度起きる子どもの失踪事件を追ってる。一番最近は今から二十年前の二月。子どもの名前は遠藤真紀。その前が小宮佳奈、中尾将平。とりあえず今現在把握できてるのは四十年前までのこの三人だ」
「ふーん。三人がそれぞれ行方不明になった日付と、あと行方不明になる前の兆候とかは?」
葵はテーブル上のノートパソコンを手元に引き寄せながら問いかけた。
「四十年前が三月十七日、三十年前が三月二十五日、二十年前が二月二十四日だ。保護者が帰宅するといなかったとか、外出したきり帰って来なかったなんて子どももいる」
慣れた手付きでキーボードを叩き、日付をメモした。
まとめた情報を眺めながら巧の話に耳を傾ける。
「気になるのはこの三人の共通点だ。一つは、全員が茜川小学校に通っていた点。もう一つは、三人とも友人が少なく大人しい性格だったという、当時の教員の印象。そして、家族からの虐待疑惑があった」
「虐待疑惑?」
「体に複数の傷があったとか、夜遅くまで一人で歩いているのを近所で見かけたとかいう目撃情報もあった。こっちで掴んでる情報はそれくらいだ」
「十年に一度、二月下旬から三月上旬になると虐待疑惑の子どもが行方不明になる、か。……ん、十年に一度? 一番最後に行方不明になった遠藤真紀は二十年前って言ってたよね。十年前は?」
「それが、十年前だけ行方不明者が出てない。だが十年前の三月頃、茜川小学校に通う女子生徒が放課後一人であの神社に向かっていくのを近所の人が目撃してた。目撃者が声を掛けた途端その子はその場で消えたらしいが、翌日には普通に学校に通ってたとか。そんな話もあって、町中で神隠しだって噂になってる」
へえ。
葵はキーボードを叩きながら笑みを浮かべていた。
こういった類の話を聞くと、決まって少年のような笑みを浮かべる。
これでオカルトの類は好きではないと言い切るのだから、誰も信用しないのだ。
「その女子生徒の名前は?」
「大橋ひより。現、榊ひより」
「榊、ひより……っと」
「お前の従妹だよ」
従妹、と言われて思わず手が止まった。
上げた顔にはさっきまであったはずの笑みはない。
ひくひくと引き攣らせて巧を見つめていた。
「マジで言ってんの?」
「最初に言っただろうが」
確かに言っていた。
榊家の親戚が関わってるかもしれないと。
だが、それがひよりのことだとは微塵も考えていなかったのだ。
葵は頭を抱え込んでしまう。
たっぷり十秒間はそのまま動かなかった。
嫌な予感がする。
こういう時の予感は大体当たってしまうことを自覚していた。
最後にあの子に会ったのは、いつだったっけ。
確か、明日香が離婚して失踪する少し前だった。
まあ、向こうは僕のことなんて覚えてないか。
葵はもう一度ノートパソコンに向かい合った。
「オッケー、これは間違いなく僕案件だ。現場の話聞かせて」
「……は?」
巧は忙しなくキーボードを叩きながら、ぶつぶつと呟く幼馴染を最初は不気味に思いながら見つめた。
いつもへらへらとしていて、人の話も自分の悪口も笑顔で聞き流す。
その適当さにイラついて、幼い頃は一方的に何度も突っかかった。
その葵が、ひよりという名前を聞いて真剣になっている。
ただの従妹じゃなさそうだ。
「……何笑ってんの、気持ち悪い」
「いや別に」
巧は手帳に視線を落として、現場の話をまとめたページをめくった。