逢魔時の再会
二章
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時を少し巻き戻して二月上旬。
榊葵の元に警察が訪ねに来た。
「よう、久しぶり」
玄関から顔を出すと、そこには懐かしい無愛想顔の警察官が立っていた。
年頃は葵と同じ二十代後半の男。
小学生の頃からの幼馴染だった。
仕事で地方を転々とする葵が地元に帰ってくると、どこから聞いてくるのかこうして突然やってくる。
「僕なにも悪いことしてませんけど」
「今日は非番だ。さっさと中に入れろ」
「捜査令状持ってきてからどうぞ」
「うるさい」
問答無用と家の中に押しかけてくる。
しかしその手には、きちんと手土産の缶ビールとつまみが入った袋が下げられていた。
そういう律儀なところは昔から変わらない。
だから彼から警察官になると聞いた時、直ぐに納得した。
理由が不良の妹を更生させるためだと聞いた時は、死ぬ程笑ったが。
「この家の場所、誰から聞いたの?」
この家を与えられたのは最近だった。
だとすれば、考えられる人間は一人しかいない。
わかってはいたが、一応聞いてみた。
「柳原のおじさん」
「ほんと変わってるよね。おじさんに場所聞いてまで僕のところに来るの、お前くらいだよ」
「いつからこっちに戻ってたんだ」
「一週間くらい前」
リビングの扉を開ける。
必要最低限の家具と家電が置いてあるだけの、殺風景な部屋だった。
しかし、どちらも高級家具や最新モデルの家電であったりする。
葵自身にそうしたこだわりがあるわけではない。
最近までこの家は葵の父親が家具家電付きで売り出していた物件だったからだ。
駅まで徒歩十分、広さ四LDK。
どう考えても一人暮らし向けとは思えない一軒家だ。
家族を作る気のない息子への嫌がらせかと思われた。
「今度はどれくらいいるんだ」
「さあ。なに、巧くんは僕がいなくて寂しいのかな?」
「いや」
警察官ーー佐々木巧は鼻で笑いながら袋の缶ビールを差し出した。
近所のコンビニで買ったばかりらしく、まだ冷えている。
葵は「かわいくねー」と苦笑しながらそれを受け取った。
葵の父親、榊義彦は不動産会社の経営者である。
その一人息子の葵は特異体質であるが故に、現在は父親の会社で散々こき使われている。
とはいうものの、仕事内容は至ってシンプル。
父親が安値で購入した日本全国津々浦々の事故物件(主に心理的瑕疵物件)に数ヶ月住み込む。
それだけだった。
住み込みの間の生活費は全て会社負担で、月給も一般の正社員と同じくらいきちんと払われる。
居住地が転々とすることの煩わしさを除けば、葵にとっては天職のようなものだった。
「ってか来る前に連絡くらいしろよ。女の子連れ込んでたらどうするわけ」
「お前が家に彼女を上げたりしないことくらいは知ってる。榊葵って奴は後腐れない関係しか築きたくない男だろ」
「最低だね、その榊葵ってやつ」
「ああ、俺が知ってる中で一番最低な男だよ」
「帰れ。直ぐ帰れ。今すぐ帰れ」
巧はにやっと意地悪く笑いながら、我が物顔で二人掛けソファに腰を下ろした。
「まあ、お前が好きそうな話持ってきてやったから聞けよ」
「あん? お前の抜け毛が酷くなったって話?」
「殺すぞ」
「曲なりにも一般市民を守る警察だよね?」
野郎とソファで隣同士座ってられるかと、致し方なく椅子を引っ張って来る。
つまみが広げられた机を挟み、向かい合って座った。
午後十六時過ぎのことだった。