表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
二章
6/104

逢魔時の再会

二章


ーーーーー


時を少し巻き戻して二月上旬。

榊葵(さかきあおい)の元に警察が訪ねに来た。


「よう、久しぶり」


玄関から顔を出すと、そこには懐かしい無愛想顔の警察官が立っていた。

年頃は葵と同じ二十代後半の男。

小学生の頃からの幼馴染だった。

仕事で地方を転々とする葵が地元に帰ってくると、どこから聞いてくるのかこうして突然やってくる。


「僕なにも悪いことしてませんけど」


「今日は非番だ。さっさと中に入れろ」


「捜査令状持ってきてからどうぞ」


「うるさい」


問答無用と家の中に押しかけてくる。

しかしその手には、きちんと手土産の缶ビールとつまみが入った袋が下げられていた。

そういう律儀なところは昔から変わらない。

だから彼から警察官になると聞いた時、直ぐに納得した。

理由が不良の妹を更生させるためだと聞いた時は、死ぬ程笑ったが。


「この家の場所、誰から聞いたの?」


この家を与えられたのは最近だった。

だとすれば、考えられる人間は一人しかいない。

わかってはいたが、一応聞いてみた。


「柳原のおじさん」


「ほんと変わってるよね。おじさんに場所聞いてまで僕のところに来るの、お前くらいだよ」


「いつからこっちに戻ってたんだ」


「一週間くらい前」


リビングの扉を開ける。

必要最低限の家具と家電が置いてあるだけの、殺風景な部屋だった。

しかし、どちらも高級家具や最新モデルの家電であったりする。

葵自身にそうしたこだわりがあるわけではない。

最近までこの家は葵の父親が家具家電付きで売り出していた物件だったからだ。

駅まで徒歩十分、広さ四LDK。

どう考えても一人暮らし向けとは思えない一軒家だ。

家族を作る気のない息子への嫌がらせかと思われた。


「今度はどれくらいいるんだ」


「さあ。なに、(たくみ)くんは僕がいなくて寂しいのかな?」


「いや」


警察官ーー佐々(ささき)(たくみ)は鼻で笑いながら袋の缶ビールを差し出した。

近所のコンビニで買ったばかりらしく、まだ冷えている。

葵は「かわいくねー」と苦笑しながらそれを受け取った。


葵の父親、(さかき)義彦(よしひこ)は不動産会社の経営者である。

その一人息子の葵は特異体質であるが故に、現在は父親の会社で散々こき使われている。

とはいうものの、仕事内容は至ってシンプル。

父親が安値で購入した日本全国津々浦々の事故物件(主に心理的瑕疵物件)に数ヶ月住み込む。

それだけだった。

住み込みの間の生活費は全て会社負担で、月給も一般の正社員と同じくらいきちんと払われる。

居住地が転々とすることの煩わしさを除けば、葵にとっては天職のようなものだった。


「ってか来る前に連絡くらいしろよ。女の子連れ込んでたらどうするわけ」


「お前が家に彼女を上げたりしないことくらいは知ってる。榊葵って奴は後腐れない関係しか築きたくない男だろ」


「最低だね、その榊葵ってやつ」


「ああ、俺が知ってる中で一番最低な男だよ」


「帰れ。直ぐ帰れ。今すぐ帰れ」


巧はにやっと意地悪く笑いながら、我が物顔で二人掛けソファに腰を下ろした。


「まあ、お前が好きそうな話持ってきてやったから聞けよ」


「あん? お前の抜け毛が酷くなったって話?」


「殺すぞ」


「曲なりにも一般市民を守る警察だよね?」


野郎とソファで隣同士座ってられるかと、致し方なく椅子を引っ張って来る。

つまみが広げられた机を挟み、向かい合って座った。


午後十六時過ぎのことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ