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縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
一章
5/104

傲慢


この世には(えにし)というものが存在する。

人と人との縁はもちろん、人とモノ、モノとモノの間にもそれは存在する。

縁は結びつきが強固であったり脆弱であったりと様々である。

先生の刀は、私と対象との縁を一時的に斬る物だった。


斬る、という行為は祓うとは違う。

証拠に先生が斬ったモノは消えてしまうけれど、数日後にはまた復活していた。

しかも毎日同じモノと遭遇していたら、また縁は繋がってしまう。

学校や通学路にいるようなソレらとは特に縁が繋がりやすかった。

先生はその場凌ぎの応急処置にすぎないのだと言った。


「あなたは彼らをどう思いますか」


ある時、先生はそんなことを聞いてきた。

「彼ら」の中には先生のことも含まれているに違いなかった。


「可哀想だと思う」


彼らは演者で、私は観客だ。

彼らはこの世に縛り付けられ、恐らく永遠に彷徨い続ける。

一方私は、そんな彼らを視認しているにも関わらず、視ることしかできない。

観たくもないホラー映画を観せられているような、そんな感覚だった。


でもその観客席に座っていられるのは、他でもない先生のおかげだ。

いつだってスクリーンからは私に向かって手が伸びてくる。

それを払ってくれる先生がいなければ、忽ち彼らと同じスクリーンの向こう側の住人になるのだろう。


「ごめんなさい」


彼らを、先生を救うことはできない。

私がただ観客席に座らされることを強制されているように、先生や彼らもまた演者でいることを強制されているのだ。


「なぜ、謝るのですか」


謝罪が気に食わなかったらしく、いつもより低い声が返ってきた。


「あなたが彼らの死や存在に、負い目を感じる必要はありません。それは優しさではなく傲慢です」


先生の言葉の意味は理解できなかったが、なんとなく叱られているのだろうということは察した。


「あなたは仏でなければ神でもなく、ただの現世の人間に過ぎません。彼らを救うことなど到底無理なことです」


「なら、先生はどうして私を守ってくれるの?」


向こう側の存在である先生が、現世の人間でしかない私を守る理由。

先生が私にしていることは、私が先生にしたいと思っていることだ。

その理由にきっと違いなんてない。


私の問いに、先生は少しの間口を噤んだ。


「……これは私の傲慢です。あなたが私を模倣する必要はありません」


傲慢。

私とあなたの関係は、その一言で片付けられてしまうほどのものなのだ。

そう言われている気がした。


「……先生がそう言うなら」


きっとそれは正しいことであり、真実なのだろう。

けれど、なぜだかとても寂しかった。



あの夢日記の件で変わったことはそれくらいだ。

あとは両親が離婚したりしたが、特になんとも思わなかった。

私は自分が思っている以上に図太く成長したらしい。


ーーそして、現在。

私、榊ひよりは高校三年生となった。

しかしそれもあと一ヶ月。

四月には大学へ進学が決まっている。


そんな私の目の前には、あの神社へと続く階段が立ちはだかっていた。

階段の両脇に生えている木と木の間には立ち入り禁止のテープが貼られている。


「怖くない? 手繋いでてあげようか」


隣でにこにこと愛想のいい笑顔を見せる男。

もちろん、先生ではない。


「大丈夫です」


「寂しいなあ。もっと頼ってくれていいんだよ?」


「結構です」


すっぱりと断り、テープを潜って階段を登り始める。

夢の中とはまるで違う様子に驚いた。

石段の石は割れ、苔が生えている。

木の葉は積りに積もってしまって、とにかく足場が悪い。

かつては朱色をしていたのであろう鳥居も、塗料は剥がれ落ち右半分は崩れて無くなっていた。


「どう、久しぶりに来た感想は」


男がボロ屋のような倒壊寸前の拝殿を前にして、腰に手を当てて訊ねてくる。


「夢で見た様子とはまるで違います」


「だろうね。ひよりちゃんが見たものは隠し神が見せた幻みたいなものだから」


辺りを見回す。

昼間だと言うのに、薄暗く空気が重い。


「それじゃあ早速、かくれんぼを始めようか」


男が二回両手を叩いた。

瞬間、空気がガラッと変わる。

さっきまで感じていた重苦しさが一気に解消された。



ーー待っててね、マキちゃん、カナちゃん、ショウヘイくん。

今、見つけてあげるから。

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