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縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
三章
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一触即発


葵の能力は存在だけで周囲の怪異現象と縁を消滅させる。

葵が手を叩いたあの瞬間、これまで隠されて見ることができなかったもの全てが可視化されたということか。


「随分と僕についてお詳しいですね。巧からの情報だけとは思えませんが」


確かに巧の情報だけで、ここまで正確に葵の能力を理解できるものだろうか。


「気分を害してしまったのなら失礼。ですが、情報収集は私たちの仕事ですので」


「その情報収集は一体いつから?」


「本格的に始めたのは佐々木刑事から捜査協力の話をされた時からですが、私のような立場にいるとそういった情報は自然と耳に入ってくるものです。榊家ともなれば、尚更」


先程から榊家という単語を強調しているように聞こえる。


「含みのあるいい方ですね。何か疑ってます?」


「いいえ、まさか。信頼していますよ」


ぱっと両手を挙げてにっこりと笑う友膳。

その様子に葵と同じ人種である可能性を感じた。

腹の底では何を考えているのかわからない。


こちらも隠し神に巻き込まれている立場だ。

何かを疑われる要素などないはずだが。

私の警戒心を察したのか、友膳は眉を八の字にして肩を落とした。


「困りましたね、あまりあなたには嫌われたくないのですが」


「情報元を教えてもらえますか」


「それはできません。守秘義務がありますので。ですが、ご協力頂いている方にこちらについての情報を何も教えないのも失礼ですね」


顎に手を当てて考え込む素振りを見せる。


「では、お話できるある程度の情報を開示します。それで今回はご容赦ください」


「僕は構いませんよ。これからもあなた方とは仲良くしておきたいですから。……ただ、一つだけ。今後この子と個人的な接触は控えてもらえますか」


葵の声のトーンが下がった。

この子、とは私のことを指しているらしい。

表情は穏やかなのに、絶対に従えという圧を感じる。


「それは佐々木刑事も含めて、ということですか?」


いつの間にか、警察側と私たちの対立のような立ち位置になっていることに気づいた。


「その通りです」


「随分と親友を警戒されるんですね」


「親友だからこそ、です」


そう言ってから、すっと目を細める。


「うちのひよりちゃんは可愛い上に純粋なので、こいつは親友という立場を利用して狙ってくるかもしれない。現に彼女はなぜか従兄の僕より、こいつの方を信頼してる節があって非常に不快です。今回に限っては捜査協力しますので、今後こいつをひよりちゃんに近づけないでください」


びしっと巧を指差し、つらつらと不平不満を述べる葵。

上司の前で親友にこき落とされた巧は、不思議と穏やかな表情を見せていた。

その横では、真壁が口元を押さえて肩を震わせている。


「ふっふふ……面白い方ですね」


「今日ほどあいつの能力が発揮されることを願ったことはない」


「え?」


「明日には全部忘れてください。あいつの存在全て」


仏のような顔で言う巧に、真壁は顔を青くした。


「彼の言うことは間に受けないで結構です」


私はため息混じりに口を挟んだ。


「いえいえ、お兄さんが心配されるのも無理はありませんよ。我々にとってあなたは、喉から手が出るほど欲しい人材ですから」


穏やかに願望をはっきりと口にする様子に悪寒が走った。


「あげませんってば」


バチバチと葵と友膳が火花を散らしている。

この修羅場に堪え兼ねた真壁が、「あ、あのぅ」と恐る恐る声を上げた。


「そろそろ、話を先に進めないと……」


「いやいや、榊さんとのお話が楽しくてつい話し込んでしまいました。情報の開示でしたね」


「お願いします」


お互い愛想笑いを浮かべているが、未だに辺りの空気は冷たかった。


両者に取り合われているという自覚はあるものの、どちらも同じくらい信用ができない。

私は小さくため息をついた。

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