表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
三章
28/104

永遠の傍観者


しばらくの間、口元を覆ったまま動くことができなかった。

なんとか井戸に近づこうと足を一歩踏み出すも、それ以上は身体が震えて言うことをきかない。


ーーピシッピキピキッ。


何かがひび割れるような音がする。

周りを見渡すと、空間に漆黒のヒビが入っていた。


ショウヘイくんの記憶はここまでなのだ。


ガラスの破片のように崩れ落ちる世界にどうすることもできず、私の身体もそのまま一緒に落下していく。

生も死もない空虚な闇の中、自分でも不思議な程冷静に悟った。

死者の記憶の中で最期を看取る。

それが私に与えられた能力であり、役目なのだ。

そして生きている限りそれから逃れることはできない。



ーー私は、永遠に傍観者だ。



「……ちゃん! ひよりちゃん!!」


聞き覚えのある声がして、はっと目が覚めた。

呼吸は荒れ、心臓が痛いほどバクバクと鳴っている。


「僕のことわかる!? 恋人の葵だよ!」


「さらっと真顔で嘘を吐くな」


目の前には心配そうな顔で私を覗き込む、葵と巧の姿があった。

どれほど気を失っていたのだろうか。


呼吸を整えて、葵の腕の中に収まっている身体を起こす。

未だ残る頭痛に思わず顔が歪んだ。


「すいません、俺が軽率でした」


巧が眉を八の字にして謝罪する。

しかし今はそんな巧を気遣う余裕などなかった。


「……拝殿正面から左側を進んだ所にある、石井戸の中を確認してください」


私が井戸の方を指差すと、巧は葵の方を一瞬見てから「わかりました」と駆け足で確認に行く。


「視えたんだね」


葵は未だ頭を押さえて頭痛に耐える私に、ため息混じりで声をかけた。


「こうなることがわかってたんじゃないんですか」


わかっていたから、懐中時計に触れることを止めようとしたのだろう。


「……できることなら阻止したかったんだよ」


どこか怒っているようにも見えた。

その瞳の奥は先程の闇のような色をしている。


「誰がひよりちゃんをここに連れてきたの?」


葵の問いかけに過去を振り返った。


ーーここはお願いが叶う場所だから、困ったことがあったらここで祈りなさい。


誰かにそう言われたことは覚えている。

だが、誰だったかは覚えていなかった。

まだなにも視えていなかった頃。

私は大人に手を引かれて、ここにつれて来られた。

でも肝心の顔は思い出せない。


葵はそんな私の肩を叩いた。


「まあ、いいや。そのうちわかる」


その人はもしかしたら、意図的に私をここに連れてきたのかもしれない。

理由は定かではないが、恐らく能力を獲得させるため。

だとすれば、そんなことが出来る人は限られるはずだ。

この場所のことと隠し神の存在、そして私に能力獲得の素質があることを知っている人間。


「夢日記破壊後に期待するしかないね」


夢日記破壊後の縁の消失。

そうなれば、能力も消えるかもしれないということだろう。

けれど私は心のどこかでその可能性を捨てていた。


井戸へ向かっていた巧が戻ってきた。

明らかに顔色が悪い。


「……鑑識に連絡した」


その言葉だけで、井戸の中に何があったのか察するに充分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ