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縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
三章
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人でなしの恋


子どもたちを見つけ、隠し神と子どもたちの縁を切り、穢れたこの土地を浄化する。


そう言った当の本人は探す気がないらしく、拝殿の周りをうろうろとしているだけだった。


「ここら辺は一時的に浄化されてるから、今なら隠し神の影響を受けない。逆に言えば手掛かりもなにもないから、自力で探すしかないってことだよ」


そんなことを言われてもここはあまりに広い。

不満の意を込めて葵をじっと見つめるも、にこにこと愛想のいい笑みが返ってくるだけだった。


「懐かしいなー。子供の頃、友達とかくれんぼした時に僕だけ最後まで見つけてもらえなくて置いていかれたことあったっけ。悲しかったなー」


他の人が聞けば憐れみを誘っているように聞こえるのだろうが、私には煽っているように聞こえた。

ずっとここを避け続けていた私に対して、早く見つけてもらえなくてなんて可哀想な子どもたちなんだろうと。

奥歯を噛み締めた。


「当初からあなたが捜査協力していたら、もっと早く見つかったんじゃないんですか」


らしくない嫌味を言った。

この事件は葵が生まれるずっと前から発生している上、彼がこの事件を初めて知ったのは最近だ。

当初から捜査協力なんて不可能な話である。

彼は私が巻き込まれているから仕方なく協力しているだけで、行方不明の三人にはなんの接点もない。

とんだ責任転嫁をしてしまった。


普段なら絶対口走らないはずのことを、つい口走ってしまったことに自分で驚いた。

葵は何故か嬉しそうに目を輝かせている。


「いい顔するね。感情的なひよりちゃんも可愛いよ」


その顔を見て察した。

この男、わざと私を怒らせようとしている。

理由はわからないが不愉快だ。


「ふざけないでください」


時間の無駄だ。

そう思って顔を背けると追い討ちをかけるように近づいてきた。


「なら真面目な話。仮に事件当初から僕がいたら直ぐ見つかってたかどうかだけど、答えはノー。僕の能力だけじゃ神には通用しない。気に食わないけど、せんせーのおかげだよ。奴が隠し神の気を引いてなければできなかった。まだ消滅はしてないみたいだね」


目には視えないが先生とはちゃんと繋がっている、ということか。

思わず安堵から自分でもわかるほど表情がゆるんだ。

気づいて再び顔を背けるも、葵がその一瞬を見逃すはずなどなくすかさず追求してくる。


「ひよりちゃんは奴が好きなの? やめときな。それは人でなしの恋だから」


人でなしの恋……?


この人は一体何を言っているのだろう。

私は生涯、人に愛されることも人を愛すこともない。

そうやって生きて死ぬと決めた。

いつか来るであろう死を先生と一緒にひたすら待ち続けるだけだ。

これは恋なんて軽いものなんかじゃない。


そう言おうとした時、葵に強い力で両肩を掴まれ無理矢理向き直された。


「死は生に尊厳を与えるものであり、生は死の尊厳を定めるもの。どちらも等しく尊い。ーー死に魅了されるな。取り込まれるよ」


死があるからこそ生きることは尊く、どのように生きたかによって死の尊さは定められる。

光があるから影が生まれ、影があるから光が存在するように、この二つの関係性は常に表裏一体なのだ。

どちらか一方に思い入れが偏った時、人はまともな生き方も死に方もしない。


ーーあなたは特に気をつけなさい。


昔、先生に似たようなことを言われたことがあった。

そして、あの時の先生も葵と同じく何かを危惧していた。


大丈夫だ。

私は何も見失っていない。

だって、私には先生がいるのだから。


「……私の生き方は私が決めます」


「その生き方が死のための生き方でないことを祈るよ」


葵が私の肩から手を離すと、ちょうど巧が階段を上ってやってきた。


「見つかったか」


「まーだ。お説教してたところ」


「説教?」


巧は私の方をちらりと見る。

バツが悪くて、思わず目を逸らした。

その逸らした目線の先には、何かを握りしめている白い手袋をした手があった。

それに気づいた巧は、握っているものを見せる。


「ここら辺は何度も捜査してるはずなんだが、こんなものが階段にーー」


巧が言い終わる前に私はそれに手を伸ばしていた。


「触るな!」


葵の制止も聞かず指はそれに触れる。


酷く錆びついた懐中時計。

壊れているのか、もう動いてはいなかった。

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